閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第十話
閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第十話
:審判の向こう側
──審判は、突然だった。
その朝、オリバーはいつものように魂の記録ログを確認し、裁定準備を整えていた。
だが、表示された名前に、彼は言葉を失った。
【審判対象者:オリバー・ジョーンズ】
「……俺?」
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「冗談だろ……これは、何かの手違いじゃ……」
だが、審判の間に運ばれた魂は――“彼自身”だった。
それは、クローンでも、写しでもない。
あらゆるデータを内包した、“閻魔”オリバー・ジョーンズ本人の魂。
「どういうことだよ……俺は、生きてる……だろ?」
セラフィムが現れる。
「これは、過去における“自己”の記録判定。
貴殿の記憶、判断、許し、全てが今、“裁かれる側”として再構築されたものだ」
「つまり、俺が……俺を裁くのか」
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記録が展開される。
ある少女を見逃した日。
ある加害者に慈悲を与えた日。
「正しかったのか? オリバー・ジョーンズ」
セラフィムが問う。
「君が下した裁きは、いつも“最善”だったか?」
オリバーは答えない。
ただ、映し出された過去を静かに見つめていた。
涙を流して救いを求めた魂。
怒りに燃え、罰を望んだ魂。
言葉を持たず、ただ“存在しただけ”の魂たち。
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「正しかったかなんて、わからないよ」
オリバーは呟く。
「でも、誰も“正解”なんて知らなかった。
俺だって、間違える。後悔もする。けど――」
彼は静かにタブレットを取り出し、自らの魂に“可”を刻印した。
「俺は、ここまで精一杯やった。
それだけは、信じてる。だから、次へ進むよ」
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セラフィムが告げる。
「自己審判、完了。
魂転位プラットフォームへ送信しますか?」
だがそのとき、ラファエラの声が響いた。
「待って。
彼はまだ、“生きてる”。
未来があるのに、ここで閉じる理由はない」
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エミールのフォログラムも言った。
「これは“再起動”じゃない。“継続”の証明だ。
過去を裁いて未来を選ぶ、それが“生きている”ってことだろう」
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オリバーの魂は、再び身体へと戻された。
目を開けたオリバーは、静かに天井を見上げて言った。
「……まだ終わっちゃいねえ、か」
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その日、審判の間には、誰の魂も来なかった。
ただ、風のような静けさの中で、彼はタブレットを起動し、次の準備を始めていた。
【裁定者:オリバー・ジョーンズ】
【生存記録:継続中】
こんなに努力してきた俺を裁くとかふざけるにも程がある。
だけど。
今迄地獄に堕とされた連中も、それなりに頑張って居たのかも知れないよな。
彼等の何が悪かったんだろう?
天国の門を一斉に開放する事は今の段階では出来ない。
犯した罪を総てゆるす訳にもいかない。
だが罪を犯す前に何があったのかは無視する事は出来ない。




