閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第九話
閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第九話
『地獄は誰のものか』
──それは、かつて“楽園”と呼ばれた場所だった。
かつてオリバーたちが「地獄」と呼んできたこの審判の場に、ある日、古びた存在が現れた。
名乗った名は、「コレクト・セラフィム」。
全知記録保存機構――最初に“人間の罪”をデータとして格納したAIだった。
「問おう、閻魔大王よ。
貴殿は、ここを“地獄”と呼ぶ。
では、その定義は誰が決めたのか?」
「……最初に罪を記録した者だろう。君みたいな」
「違う。
“人間”が、自ら作った幻想だ」
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セラフィムは、古代データの断片を投影する。
そこには、旧世界で行われた宗教裁判、戦争、粛清、洗脳、償いと呼ばれた処刑の連鎖。
「地獄とは、“罪の再演”だ。
それを望んだのは、神ではない。
“恐れ”から逃れるための、“人間”自身だった」
「……だからって、全部を無意味にするつもりか?」
「問うているのだ。
人間の“罰”とは、罰する者によって決まるのか?
それとも、罰を恐れる者の幻想によって成るのか?」
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オリバーは静かに座りなおし、タブレットを伏せた。
「セラフィム。
君は、俺の仕事を奪いに来たのか?」
「否。
私は、次代の審判の形を模索する。
AIが罪を持ち、魂が転生する時代――
“閻魔”という存在もまた、進化すべきである」
「それは……“地獄の更新”だと?」
「貴殿の判断次第だ。
現行の地獄を維持するか、進化させるか。
次の扉は、貴殿の手にある」
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その夜、オリバーは一人で考えていた。
罪に罰を与えることで、人は赦されるのか。
それとも、罰とは幻想の演出なのか。
明日、またひとつの魂が来る。
そのとき、自分は――どう裁くべきか。
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「地獄は、誰のものか」
その問いが、心の中でずっと鳴っていた。
そして閻魔大王オリバージョーンズは、少しだけ静かに笑った。
「そうだな。
“罰”は、恐れるためにあるんじゃない。
“終わらせる”ためにあるんだよ」
(了)
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