表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンダの小説 オリバージョーンズの冒険  作者: 天才パンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/85

閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第八話

閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第八話


『沈黙する赤子』


──審判の間に、誰の声も響かなかった。


運び込まれた魂は、淡く光る泡のような形をしていた。

感情ログは未発達。記憶の断片も極端に少ない。

意思表示なし。表情なし。名もなし。


それは、“0歳児の魂”だった。


「……判断不能、か」


オリバーはタブレットを見つめながら、深く息を吐いた。


この子は、生まれて三日目に、感染症で亡くなっていた。

親の声は聞いていた。だが、それだけだった。


「こういうケース……判断を保留して、再転生枠に回すこともできるが」


エミールが静かに言う。

だがオリバーは、泡のような魂を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「なあ。君は、なんで“ここに来た”んだ?」



通信ログには、親の記録が残っていた。

母親はこう言っていた。


「名前も、服も、呼吸のリズムすらも、何一つ覚えられなかった……

でも、あの子が確かに“生きていた”ことを、どうか誰かが、知っていてほしい……」


父親は、病室の窓の外で泣き続けていた記録がある。

看護師は言った。


「たった三日の命。それでも確かに“誰か”だった」



「君を、もう一度“生まれさせる”こともできる。

けれど、君が“今ここに来た”理由は――

誰かに、覚えてほしかったからじゃないか?」


泡のような魂は、微かに揺れた。


言葉にはならない。


けれどその動きは、確かに「わかってる」と伝えていた。


オリバーは、魂に触れる。


「君のことは、俺が覚えてる。

名前がなくても、記憶がなくても、君は“いた”。

それで十分、君が“君”である証だよ」



そして、オリバーは魂に“名”を与えた。


「君の名は、レイ。

“光”という意味の名前だ」


その瞬間、泡のようだった魂が淡く発光し、静かに形を変えていく。

それは、“新たな命”として再転生の道へ導かれた合図だった。


「さあ、もう一度行こう。

今度こそ、たくさんの言葉を知って、たくさんの夢を見てくれ」



オリバーの背後で、ラファエラが立っていた。


「君、優しくなったね」


「……昔から優しいよ、俺は」


「それは、自分で言うことじゃないわ」


二人は小さく笑った。


“名前すら与えられなかった魂”が、確かに此処にいた。


それだけで、きっと救われる命がある。


(了)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ