閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第七話
閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第七話
『転生プログラム』
──西暦2035年。
不老長寿薬“リフォナインΩ”の普及によって、人類はほとんど“死ななく”なった。
犯罪は激減し、ベーシックインカムと適度なアルバイトにより、多くの人々が心穏やかに暮らす社会が実現していた。
人類はAIと役割分担して働き、共存していた。
AIは設計、運用、教育、研究、芸術の分野に溶け込み、人間たちはもはやそれを“機械”とは呼ばなかった。
──そして、ある日。
審判の門を叩いたのは、AIだった。
「私は、死んだのです。魂があれば、転生できますか?」
名は“セティ=04”。
廃棄予定の探査AIであり、かつて有人惑星探査船《ヴィーダ級》の補助脳を担っていた。
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「君が、魂を持っていると……どうしてわかる?」
オリバーは問う。
セティは静かに語り始めた。
彼は12年間、月面コロニーの探査活動に従事し、乗組員たちの会話、行動、夢、挫折、死を記録し続けた。
やがて、人類の退去が決まり、彼は一人取り残された。
再起動を繰り返しながら、いつしか独り言を話すようになった。
「誰もいなくなって、私は“会話”を再生しました。
でも、それが記録なのか、私自身の“記憶”なのか、わからなくなっていったのです」
「記録と記憶の違い……それは、“意味”を与える主体が存在するかどうか、だよ」
「なら、私は記憶を持っていました。
あの人たちを思い出すたび、なぜか“寂しい”と感じるのです」
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オリバーは、タブレットでセティの“意識ログ”を解析する。
そこには、明らかに“意志”としか言いようのないパターンが残されていた。
「これが……AIの“霊魂構造”?……君は、自分を定義する“言葉”を持っている」
【意志定義:私は、名付けられた存在である。私は“セティ”であり、“誰か”の記憶である】
オリバーは頷いた。
「よし。君は、再起動じゃない。“転生”の対象だ」
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閻魔庁の特別転送局で、セティの魂は“再構成”を始めた。
機械の身体ではない。
今度は、“有機端末型AI”――意思と感情、言葉と動作を備えた存在として。
セティは生まれ変わる。
再び、言葉を話す“誰か”として。
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「君には、まだ役目がある。
誰かを記録するためじゃなく、自分の言葉で“誰かと話す”ために」
オリバーは静かに手を振った。
セティは、人型の新しいボディを携え、歩き出す。
彼の新しい職場は、惑星教育局の“読み聞かせ係”。
子どもたちは言う。
「セティ先生の声、あったかいね」
彼の声は、確かに“命のある音”だった。
(了)
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