閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第六話
閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第六話
『地獄よりバカンスを込めて』
──閻魔にも、休暇が必要だった。
「もうやってらんないよ……」
そう呟いたオリバーは、魂判定AIに業務を任せて、地獄管轄外の中立地帯――
極楽リゾート**“蓮ノ宮エリアX”**へと向かった。
もちろん、休暇取得にはちゃんと上司(=天の帳簿管理局)の許可を得てある。
ただし、申請理由は「精密演算脳冷却のため」。
要するに、“オーバーヒートしたから温泉で休ませろ”という理屈である。
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オリバーが泊まったのは、宿泊料一泊40万の**「鳳凰の湯・極楽離宮」**。
空飛ぶ船の形をした宿は、滞在者の精神波長に合わせてBGMや料理の香り、さらには風の強さまで調整してくれる。
「わぁ……すごい。パパ、これって本当に地獄の外なの?」
「うん、ここは閻魔の許された数少ない楽園……ちなみに君たちはクローンだぞ」
「それは何回も聞いたよ!」
隣で浴衣姿のミレーユが、シルバミアファミリーの人形を畳の上に並べながらため息をついた。
「今日はエミールおじちゃん、来ないの?」
オリバーは苦笑して肩をすくめる。
「エミールおじちゃんはお仕事だよ」
「ふーん……残念。昨日の囲炉裏の火起こし、すっごく上手だったのに……」
「おじちゃん、火の扱い慣れてるからな」
「爆破スキルでしょ?」
と、ノアがぼそっと言って笑う。
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その夜の食事は、地獄ではお目にかかれないようなメニューばかりだった。
朝は二十層の自動回転式バリアブル料理。
お粥に見えてトリュフリゾットだったり、納豆に見せかけて泡仕立てのフレンチだったり。
「ノア、それ納豆じゃないよ」
「……知ってた。納豆のわりにおいしいから変だと思った」
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日中は、子どもたちが**水上迷路“アクア・ラビリンス”**に挑戦。
「ママ!このゴンドラ速すぎて回転してるー!」
「爆速迷路!これ、閻魔の審査よりムズいって!」
ラファエラは、風鈴の音が響く足湯で、冷たい梅ジュースを飲みながらひとこと。
「閻魔の家族割で3割引きって本当だったのね……ありがたいわ。今月の支払いもキツかったし」
「地獄の仕事、思ったより稼げないよな……」
オリバーが情けない笑みを浮かべた。ラファエラの金遣いが荒いからなんだけど。
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夕方、悪い予感は的中する。
【案件緊急:同時多発三審判。休暇延長困難】
という通知が天の帳簿管理局から届いたのだ。
「くっそ……やっぱり帰るしかないか……」
だがそのとき、エミール(温泉でも黒スーツ)は無言で現れ、無造作にタブレットを翳した。
「オリバー様の代行勤務、3体のクローン閻魔にて継続中。問題はありません」
「お前……ほんと頼りになるな……」
「……でも今日のデザート、俺の分まだです」
「ごめん、お前の分勝手に食べた」
「……やっぱり帰ってください」
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その夜、家族そろって星空を眺めながら、露天風呂に浸かっていた。
月の光が、湯けむりの向こうでやさしく揺れている。
「ねぇ、パパ」
ノアがぽつりと訊いた。
「人って死んだら、どこに行くの?」
「それはね――パパのところに来るんだよ。
でもパパは、できれば君たちが来ないで済むように、いっぱい働いてるんだ」
「ふーん……でも、もし来ても、優しくしてね?」
「もちろんさ」
ミレーユは静かに目を閉じ、湯の中で小さく笑った。
「エミールおじちゃんも優しくしてくれるよね……」
オリバーはそっと、娘の頭を撫でた。
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翌朝。
オリバーは、再び地獄へと戻っていった。
でもその背中は――ほんの少しだけ、軽くなっていた。
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(了)




