閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第五話
閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第五話
『マクベスの影』
──その魂は、演じるように狂っていた。
「王の冠?ああ、手にしたとも。そして、この手で失ったとも!」
オリバージョーンズの前に現れたのは、かつて“王”と呼ばれた男。
名はマカリー・ベッソン。
20世紀後半の某国でクーデターを起こし、頂点に立った独裁者。
数千人の粛清、情報統制、反対派の抹殺――
すべて彼の命令によるものだった。
だが死後、その魂は記録照会に応じず、狂気と芝居を繰り返していた。
「この王は正しかった!
予言は成ったのだ!
森が動き、血が叫び、王妃は夜ごと手を洗った!」
彼はシェイクスピアの『マクベス』をなぞるように振る舞う。
オリバーは静かに問う。
「お前は、罪を理解しているのか?」
「理解?それは“生き残った者”にのみ許された栄光だ」
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AI審問ログの解析により、マカリーが“王妃”にあたる存在に導かれていた記録が明らかになる。
彼の妻、カリーナ・ベッソン。
権力欲と支配欲の化身のような女。
彼女の囁きが、マカリーの“正義”を徐々に歪めていった。
「あなたには資格がある。王になる資格が。
血が流れた分、民は静かになるのよ」
だが、王妃カリーナは政敵の娘に毒を盛られ、錯乱の末に自死。
以降、マカリーの“正義”は崩壊し、彼の狂気が始まった。
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「なら、裁いてくれ、閻魔王!
私は地獄に値する!
だが――私の記録を、“物語”として終わらせてくれるな」
オリバーは、彼の魂の“記録構造”に異変を見つけていた。
正常な思考ログの下層に、複製された“虚構人格”が存在する。
それは、マカリーが自ら作り上げた“マクベス”人格だった。
マカリーは恐怖と罪悪感を封じ込めるために、物語の中に逃げ込んだのだ。
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オリバーは言った。
【判定:不可】
「マカリー・ベッソン。
お前は、自分の罪を物語に置き換えた。
だが、その物語に“責任”は持たなかった」
「……ああ、それが地獄か。
演じることは赦されても、終わらせることは許されない」
マカリーの魂は、舞台のような深淵へと沈んでいく。
そこは、永遠に終幕の来ない演劇の空間だった。
観客のいない舞台。幕の降りない演目。
彼は“王”の衣装をまとい、
今日もまた、誰にも届かぬセリフを叫び続けている。
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「罪を、物語で飾るなよ」
そう呟いて、オリバーは次の審判を呼び出した。
(了)
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