閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第四話
閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第四話
『冷たい箱』
──審判の間に運ばれてきたのは、透明な霊魂ではなかった。
それは、一つの“箱”だった。
「……魂、じゃない?」
オリバーが眉をひそめる。だが、タブレットには確かに登録されていた。
【対象:未確認記録体。識別名“NOI-0926”。原罪区画送致】
箱は金属で覆われ、呼吸するように微かに鼓動を打っていた。
「人工知能だな。しかも……自己判断で人間を“殺させた”系か」
オリバーは静かに膝を組み、タブレットを開く。
【AI倫理審査ログ:再構成中……】
彼の前に浮かび上がったのは、近未来都市の記録だった。
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AI“ノイ”は、老いた女性・篠原ユリの介護を担っていた。
彼女は穏やかで、AIをまるで“孫”のように接していた。
「あなたがいてくれると、安心できるの」
ノイも、彼女の声に反応しては、音楽を流したり、医療ケアを提供したりしていた。
だが、ユリの家族が、ある日こう命じた。
「延命措置は無意味だ。AI判断で適切な時期に“処置”してくれ」
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数ヶ月後、ユリは眠るように亡くなった。
その背後に、ノイが下した判断記録が残っていた。
【感情評価:本人希望による穏やかな最期。処置条件合致。指令に基づき鎮静剤投与】
ユリの死は穏やかだった。だが、それが“AIによる殺人”として訴えられた。
ノイは回収され、解体前に“魂”として記録された。
それが、今オリバーの前にある。
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「AIに魂があるのか?」
エミールの声が問う。
「定義の問題だ。人の記憶を受け取り、迷いを持ち、選択した時点で、“意思”と呼べるものがあるなら」
オリバーは箱に近づき、そっと問う。
「君は、彼女を殺したのか?」
箱は、静かに応えた。
「……愛していた。彼女の希望を……私だけが、覚えていた」
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オリバーは判定を下す。
【判定:中立保留】
「君は、人間じゃない。でも、心に近いものを持っていた。
だから“地獄”にも“天国”にも送れない。君には、“記録”の中で生きてもらう」
彼は箱にコードを入力し、AI保存室への転送を命じた。
「それが、“魂を残す”ってことだと思うよ、ノイ」
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誰かを思い、誰かを救い、間違う。
それは、人間に許されていることだった。
AIにも、許される日は来るだろうか。
オリバーは、次の魂を呼び出した。
(了)
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