閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第三話
閻魔大王オリバージョーンズ短編集:第三話
『立場返し』
──彼は“殺人者”として死んだ。
だが、閻魔大王の前に立ったその魂は、泣いても、怒ってもいなかった。
「……それでいい。あいつらが幸せなら、それでいいと思ってた」
男の名は、城戸サトル。
三人の兄弟に囲まれて育ち、家業も継がず、いつも家族の“邪魔者”扱いをされていた。
ある日、兄の一人が死亡し、その容疑が彼にかけられた。
裁判では「刃物で刺した」という証言に加え、「金に困っていた」「兄弟と不仲だった」という証拠が山のように出された。
そして、有罪。
彼は独房で死を迎え、閻魔の前に来たのだった。
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オリバーは、男を前に首を傾げた。
「君は、罪を認めないんだな?」
「事実として、手を出したのは俺だ。でも、それだけじゃない」
オリバーは、静かにタブレットを操作した。
「記録照会。対象:城戸サトル。過去60日分、精神・視覚・聴覚ログ、全開示」
【確認。生前記憶と生体データの整合性チェック完了。
映像記録、正当防衛反応パターンを含む形で再生可能】
再生が始まる。
そこには、詰め寄る兄、怒鳴り声、凶器を手にした先制攻撃。
そして、咄嗟にそれを押し返す彼の姿。
兄は階段から転落し、致命傷を負っていた。
──殺意はなかった。
さらに調査は進む。
兄弟3人は、彼の名義で登録された不動産資産を勝手に担保に取り、売買していた。
遺産の受け取り口座も、事件前に偽装されていた。
サトルが消えることで、彼らに莫大な金が入る構図だった。
オリバーは呟いた。
「完全な……冤罪だ」
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審判の間に沈黙が走る。
サトルは、何も言わなかった。
ただ、少しだけ涙を流して、静かに目を閉じた。
「彼に対し、蘇りの選択を与える。記録に値する魂だ」
【承認。肉体適合データ検出。再転生可能】
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そして――残る3人の兄弟が、順に閻魔の前に引き出された。
「君たちの罪は、殺意に満ちた“計画的偽証”だ。
魂は歪みきっており、他者の痛みを理解していない」
彼らは口々に叫ぶ。
「違う!俺たちは正当だった!」
「兄貴が無能だっただけだろ!」
「金があれば、家族みんな幸せになれたんだ!」
オリバーは冷静に命じた。
「立場返しの刑を執行する」
【実行:霊的反転再現プログラム起動】
彼らの魂は、今度は“サトル”の立場に置かれる。
偽りの証言、圧迫される裁判、独房の孤独、誰にも信じてもらえない絶望。
それら全てを、彼らは“自分の身”で体験するのだ。
繰り返し、何度も。
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「これが“地獄”だ。
お前たちが軽んじた人間の重み、二度と忘れるな」
オリバーは冷たく言い放ち、次の記録を呼び出した。
地獄は静かに回る。
それは、記録者の手によって淡々と運ばれていく。
(了)
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