第4章「マハラジャと契約コントラクト」
第4章「マハラジャと契約コントラクト」
gifted学園の裏庭。芝生は陽光を受けてぽかぽかと温かくて、でも俺はその柔らかい空気を素直に感じられなかった。
なぜって?
すぐ横には、スーツ姿の男たちが何人も倒れていたからだ。
マハラジャを襲った奴ら。見た目は精鋭。中身は──ただの無能だった。
俺とハチが空からハーレーで突っ込んだ瞬間、計画も何も全部吹っ飛んで、数分後にはこの光景ってわけ。
「……オレは、また君に借りができた」
そう呟いたマハラジャは、どこかくやしそうで、それでいて嬉しそうだった。
まったく、面倒くさい性格してるなと思いつつ、俺は笑って言ってやった。
「いつか返してもらうよ。その借り」
横では、ハチコウが牙をむいて唸っていた。
敵の装備がピーピー鳴ってるのは、たぶんハチの“振動波”のせいだ。
「犬、強いな……」
「ハチコウはね、俺の初めての相棒だよ。3歳の誕生日に母さんと父さんがくれた」
俺がそう言うと、マハラジャはなぜか少し黙って、黄金のペンダントを外した。
「これは僕の“印”だ。君と……契約を結ぼうと思って」
「契約?」
「“ウォーカー”としての契約。君には、僕の代理人として行動してもらう。“マハラジャ・ウォーカー”という名前で、戦場に出てほしい」
俺はちょっとだけ眉をひそめた。
名前を貸す?何のために?
「……ゲームだよ」
そう言ったマハラジャの目は、冗談を言う時とは違ってた。
まっすぐで、少しだけ寂しそうだった。
「gifted学園の“フィールド戦講習”……あれのスコアを見ていた。君には、必要な才能がある。判断、推理、射撃、そして何より……運命を動かす直感」
「で、勝ったら何が手に入る?」
「地位、情報、そして影響力。金はいくらでも出す。“マハラジャ・ウォーカー”の名を、ランキングトップに維持してくれ」
俺は笑った。
「……なるほど。君って、情報戦の天才だな」
「違うよ。僕はただ、君に賭けたいだけだ」
その手を、俺はしっかり握り返した。
⸻
その夜、バード邸。
「えぇぇぇぇ!? 君、マハラジャと契約したのか!?」
ケイティが鉢を抱えて叫ぶ。その背後では、泥で鼻が真っ黒なフェイ太郎が、また“ミケランジェロ3号”の鉢を掘ろうとしてた。
「やめろって言ってんだろ鼻黒イタチぃぃぃ!!」
「フェレットの本能よ」とラファエラが笑う。
……こっちはこっちで平和な戦場だ。
ソファでじっとしていたエミールは、何も言わなかったけど、何かを考えている顔をしていた。
(マハラジャの提案……全部を鵜呑みにしてないな、あいつ。たぶん、俺と同じで“裏”を見てる)
⸻
数日後。
俺は“チーム・マハラジャ・ウォーカー”として、公式フィールドに立った。
それが、始まりだった。
ランキング1位。人工知能の監視。ライバルたちの陰謀。学園中の注目。
それらすべてを背負ってでも、俺は前に出ることを選んだ。
だって俺は、母さんの仇を探してるし、仲間を守るって決めたから。
そしてなにより――
……この“名前”に、本気で賭けてくれたやつがいるから。
誰も知らなかった。
この時、ハーレーにまたがった一人の少年が、後に“神”と呼ばれる存在になるってことを。