第8章:そして神話は笑った
第8章:そして神話は笑った
バケーション最終日。
朝の陽射しは、まるで何事もなかったように、やわらかく降り注いでいた。
オリバーはバルコニーの椅子に身を沈め、まどろみながらつぶやいた。
「……終わっちゃったな」
「静かでいい朝ね」
と、ラファエラがコーヒーを手にやってきて隣に腰かける。
「でも、静かすぎて落ち着かないんだよ……事件の匂いがしないと」
「それ、“職業病”ってやつでしょ」
ラファエラは呆れ笑いを浮かべつつ、タブレットを開いた。
「……ところでさ、次のバカンスは豪華客船クルーズにしない?」
「クルーズ?」
とオリバー。
「うん、ネットで調べたらチャッピー(ChatGPT)主催の子ども向けショーが毎日あるのよ」
「へぇ……何やるの?」
「セーラールーンのバレエショーとか、ロボットがぬいぐるみディズヌーキャラになって、食事中にグリーティングしながら人形劇するやつとか」
「すごい世界だな……」
「それだけじゃないの。シルク・ド・ソレイウのパフォーマンスも、ちゃんと船上劇場に来るって」
「……いいね、それ」
オリバーは、笑いながらうなずいた。
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そのころ、ミレーユとノアは、昨夜の晩餐会でも使っていたシルバミアファミリーのキャラたちをていねいにケースへ戻していた。
ノア:「この子たち、次は船に連れてくね」
ミレーユ:「うん、船上本格スパイスカレー屋さんシナリオでいこう」
「ていうか君たち、旅行より計画性あるよね……」
とオリバーが呆れたように笑う。
そして、ふとエミールの方を見て――
ミレーユが小さな声でぽつり。
「……エミールおじちゃん、かっこいい……」
ノア:「え?今なにか言った?」
「言ってない。なにも」
ノアはニヤリと笑って、また黙った。
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エミールは静かにリリカの肩に寄りかかってうたた寝し、
ユリウスとネロは「次はドラゴン船長と戦いたい!」と騒ぎながらスーツケースに乗って遊んでいた。
ラファエラはその様子を眺めながら、微笑みをこぼす。
「みんな元気だし……次の旅も、楽しみだわね」
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帰りのシャトル。
マハラジャからのメッセージが届いた。
《7兆円の借金? 忘れたことにするよ。
閻魔としての働きに免じてね。
それと、バカンス中に君の偽物アカウントがランカー1位になってたから、
一応君、世界王者ってことで》
オリバー:「……えぇ……そんなつもりじゃなかったのに……」
「おめでとう、世界一のサボリ王!!」
と、家族全員が笑った。
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空は、やさしい青だった。
旅は終わった。
でも、またどこかで始まる。
そう、神話の続きは、きっとまた――笑って語られる。
⸻
(完)
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