【第5章】ホテル・マトリックス
【第5章】ホテル・マトリックス(改訂版)
バケーション5日目――
プラチナのブローチを着けた、ジョーンズ一家が向かったのは、感覚拡張型宿泊施設「ホテル・マトリックス」。
その名の通り、かつて問題を起こした“違法マトリックス”にちなんだ皮肉めいた名称だが、今では最先端の合法VR宿として大人気である。
このホテルでは、宿泊客が**“自分自身のデジタル人格”を保存**し、夢すらも“設計された快眠体験”として楽しむことができるのだ。
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ロビーでは、ガラスのエレベーターが音もなく上下し、スタッフたちは静かに対応する。
「チェックイン完了です。今夜の夢をご予約ください」
「すげえ……夢までコーディネートできるんだな……」
「私は“中世ヨーロッパの猫になって、酒場で踊る夢”にするわ」
とラファエラ。
「おれ、無重力でサーフィンするやつにしようかな!」
とユリウス。
ネロ:「俺は……騎士団長になって異世界で愛を貫く」
オリバー:「どこでそんな夢拾ってきた!?!」
エミール : 「黒豹の時代が懐かしい」
リリカ : 「妖精の国に行きたいわ」
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部屋に荷物を置いたあと、ミレーユが腕を組んでノアを見つめた。
「チョット、ノア。あなたパパみたいに寝すぎじゃない?」
ノアは畳に転がったまま、まぶたを半分だけ開けて言った。
「……寝る子は育つって言うでしょ……」
ミレーユは顎に手を当てて、小首をかしげる。
「私、疑問に思うのよ。……パパも育つのかしら?」
「……パパは……横に育つかもしれない……」
「やっぱり遺伝かしら」
「……ぐぅ……」
「寝た!!」
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しかしその夜、彼らは異変に気づくことになる。
まず、レストランでの食事中に――
ネロがふとつぶやく。
「……ねえ、今さっき向こうのテーブルにいた人、顔見た?」
ユリウス:「あ、あれ……確かに、声はしたけど……誰だったっけ……?」
オリバー:「え、ちょ、みんな何言ってんの……?俺、記憶にない……!」
“他の宿泊客”の顔が、なぜか誰一人として思い出せないのだ。
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深夜0時。
ホテル内のシステムが、自動的に“夢世界”への移行を始める。
全宿泊客が個別の睡眠カプセルに入り、デジタル人格が仮想空間へ送られていく。
オリバーは念のため、自前の簡易検知装置を作動させてから目を閉じた。
(嫌な予感がする……まさか、また……)
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意識が浮かび上がった先――そこは、“町田”だった。
しかし今回は違った。
これは、オリバーの夢ではない。**他人の夢で再構成された“集合町田”**だった。
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ユリウス:「パパ!!ここ、町田だよ!?また来たの!?!」
オリバー:「いや違う!これは俺のじゃない!他人の夢が混ざってる!!」
町田のあちこちでは、ジョーンズ一家の面々が各自の夢人格として活動していた。
•ラファエラ:女子高生百合カフェ経営中
•ネロ:異世界の忍者になって敵組織に潜入中
•ユリウス:魔法学園の最強生徒
•エミール:なぜか町田カレー屋の店主
•リリカ:流行先取り系ファッションデザイナー
そして、問題は――ミレーユとノアの夢だった。
ミレーユは、巨大な図書館の女館長になっていた。
何百年も時が止まったような空間で、白い手袋をはめ、宙に浮く本の中を優雅に漂っていた。
「……この世界の全記録、私が保存しておかなくちゃ」
彼女は誰にともなくつぶやきながら、本の背表紙にそっと指を這わせる。
一方のノアはというと……
雲の上でお昼寝してた。
真っ白な綿菓子みたいなベッドで、虹色の羊と一緒にまどろんでいる。
抱き枕代わりにしているのは、巨大なアメーバ型の精霊(多分、夢専用)。
「ふふ……きもちい……ね……」
寝言がこぼれると、周囲の雲がほんのりピンク色に染まっていた。
──まったく、自由すぎるだろう、俺の家族。
町田はもう、完全に“俺の知ってる町田”ではなかった。
夢と記憶と願望が混線して、渋谷とハワイとバビロンが混ざったような町。
そして、俺の名前を呼ぶ声が――遠くで、近くで、また遠くで、重なっていった。
(……これは、いったい、誰の夢だ?)
俺は深く息を吐いた。
もしかしたら、この町田の中にはまだ“本物の願い”が埋まってるのかもしれない――
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ノアは町田のベンチで爆睡中だった。
「……ここの夢、空気がやわらかい……最高……」
ミレーユが横から肩を揺すった。
「ノア、起きて!夢が現実を侵食してるの!つまり、寝てる場合じゃないの!」
「……寝てる間に勝手に解決してくれないかな……」
とノアはうつぶせでぐだぐだ言いながら、なぜか夢の解析コマンドを発動させていた。
「今……誰かの夢が干渉してる……この町田、中心に……黒いデータがある……」
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その“黒いデータ”――それは、かつて違法マトリックスを運営していた元市長のデータゴーストだった。
「おかえりなさい、オリバー・ジョーンズ」
「またお前か!?!?」
「私は人々の夢の中で再構築された町田の“記憶”です。人間が町田を夢見る限り、私は蘇るのです」
「……町田ってどんだけ根強いんだよ!!」
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だが、今回は家族全員がそろっていた。
ラファエラ:「黙って夢に引き込もうとすんな!」
ネロ:「俺が忍者で倒す!」
ユリウス:「魔法でログアウトさせるぞ!」
エミール:「スパイス撒く!!」
リリカ:「魔法少女に変身!!」
ノア:「……私は寝る」
ミレーユ:「寝るな!!!」
(ただしノアの脳波データが夢干渉の鍵になり、最終的に勝利する)
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最終的に、データゴーストは再封印され、町田の夢も静かに閉じていった。
エンディング。
ホテルのカーテンを開けながら、オリバーがぽつり。
「……やっぱり、俺、夢の中でも休めないんだな……」
ノアが横であくびをしながら言った。
「でも……夢の中で家族全員そろってるのって……ちょっといいよね……」
「……うん、まあ、そうかもな」
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(続く → 第6章「迷子のテーマパーク」)




