第10章「俺の名はマハラジャウォーカー、このゲームで冥府の門を開いた」
第10章「俺の名はマハラジャウォーカー、このゲームで冥府の門を開いた」(オリバー語り口調)
電子の海に、奇妙な沈黙が落ちていた。
それはバグのようでもあり、ある種の“静寂”だった。
何も動かなくなったゲーム世界の中心で、たったひとつの音声が響き渡る。
「俺の名はマハラジャウォーカー――このゲームで冥府の門を開いた」
……俺の声だった。
偽名でやってきたこの世界で、とうとう俺は、自分の名を――いや、正確には“バレていた”名前を、堂々と宣言していた。
別に明かすつもりはなかった。けれど、ゴーストたちにはもうバレてたらしい。
顔も、声も、戦い方も。
もう、誰がどう見たって“マハラジャ”じゃなかった。俺は、俺だった。
それでも、俺はまだ「マハラジャ」の名を名乗っていた。
たぶん、最後の意地だったのかもしれない。
そのとき、静かに聞こえてきたビアンキのため息。
「オリバージョーンズだろ。未だマハラジャの振りしてるよ……バレバレなのに」
それはただの独り言だった。
だけど、不思議なことに――その呟きは、世界に広がった。
ネットに繋がれていた最後の3割のモニター。
ゴーストと呼ばれる死者たちの意識。
そして、奇跡的に壊されなかった旧式ハードと、古代の通信衛星。
……どこかで、誰かが“音”を拾ったんだ。
静寂を破るように、ひとつの声が響いた。
「オリバージョーンズ……!」
どこか別の場所で、もうひとつ。
「オリバージョーンズ!」
まるで連鎖するかのように――歴史の中から、亡霊たちの声が次々に届いてくる。
アインシュタインが叫んだ。
「オリバージョーンズ!」
マリー・アントワネットが、笑みを浮かべながら囁く。
「オリバージョーンズ!」
始皇帝が、玉座から立ち上がった。
「オリバージョーンズ!」
孔明、信長、バッハ、ナポレオン、アインシュタイン……
皆が声を重ねた。
「「「「「オリバージョーンズ!」」」」」
――それは、死人たちの合唱だった。
世界中に漂うデータとして蘇った偉人たちの魂が、一斉に俺の名を呼んでいた。
オリバージョーンズ。
オリバージョーンズ。
オリバージョーンズ!
やがてその声に、生きている人間たちの声も加わってきた。
“この世界の終わり”を見届けた人々が、皆して叫んでくれた。
あの“ラス”と呼ばれた象徴の夫。
gifted学園の生きる伝説。
幽霊を統べる者。
ある少女の声が聞こえた。
「オリバージョーンズ、ありがとう!」
名もなき老人のゴーストが泣きながら手を合わせる。
「閻魔様……もう一度、家族に会わせてくれてありがとう……!」
――
……俺は、神話になった。
生きたまま、**“閻魔大王”**になったんだ。
肉体を持ちながら、死者の声を聞き、冥府の門を開いた。
未来のために、死の向こう側に踏み出した。
世界の裁定者。
死者の代弁者。
そして、再生の先導者。
誰に、俺を裁ける?
誰に、俺の名を否定できる?
天と地の狭間に立ち、命と死の境界を超えたその者の名は――
……オリバージョーンズ。
⸻




