第9章「祭りの咆哮」
第9章「祭りの咆哮」(オリバー視点・語り口調)
バーチャル世界の奥深くにある、仮想空間内の町田シティ。
電子の地層の上に築かれたその都市は、今まさに狂騒の渦の中に呑まれようとしていた。
俺――マハラジャ・ウォーカーのアバターとして、宙に浮かぶ玉座に腰を下ろしながら、その光景を静かに見下ろしていた。
すぐ近くには、ラファエラ、そして4人の子どもたち。
みんな、ゴーストたちの結界に守られて立っていた。
敵は――町田市民。
彼らは怒っていた。
マトリックス内に溜め込んだはずのデータ資産が、俺たちジョーンズ一家のゲーム支配によって操作されていることに気づいてしまったからだ。
ここは彼らにとっての天国だった。ここから出たくない。いや――ここに居続けたい。
そんな思いが、あの群衆からひしひしと伝わってきた。
だけど俺は、ただその場に座りながら、どこか呆れたような視線を群衆に向けていた。
「……なんで、皆で一斉に飛び掛かってこないんだ?」
俺の呟きが、玉座の金属フレームを低く共鳴させる。
怒りじゃない。嘲笑でもない。ただの冷静な分析だ。
「集団戦の素人かよ……」
隣でハチコウが、短く憎たらしげに吠えた。
あの声には、戦術を理解している者の苛立ちがあった。
「ま、仕方ないか。本物の戦闘なんて、ここ100年まともに起きてないんだから」
――だが。
次の瞬間だった。
「ラッセラーッ!ラッセラーッ!ラッセラッセラッセラー!」
祝祭の掛け声とも、奇声ともつかぬ声が群衆から響いてきた。
町田市民の“連帯”が限界を越え、誰かが火を点けたらしい。
流れ出すのは、あの伝説の大友アニメ――**『AKARI』**のサウンドトラック。
空気が、一変した。
「「AKARIだ!」」
ユリウスとネロが感激して叫ぶ。まったく、元気だな。
そして、祭と書かれた巨大な団扇が虚空に現れた。
暴風を巻き起こし、俺たち以外の全存在を吹き飛ばしていく。
「こりゃ強いわ……お前達、大人しくしてろ」
そう言って、ユリウスとネロ、ミレーユとノアの4人を後方に下げた瞬間、奴らは――
町田市民の“最終兵器”を放ってきた。
それは、**『AKARI』**に出てくる都市壊滅級のエネルギー波。
……冗談じゃない。これはもう、ただのゲームじゃない。
仮想世界の街が、焼き尽くされていく。
町田シティの外郭、マトリックス専用空間の外側――全部、吹き飛んだ。
ランカーたちはデータとしては生き延びた。
でも、現実世界側のモニターやリンク機材は壊滅して、次々と接続が切れていった。
その中で、あの声が響いた。
「エミール・モナーク!お前!如何して俺を!」
……ビアンキの叫びだった。
エミールがビアンキを庇って、戦線から外れた。それを見て、ビアンキが取り残された感情を吐き出したんだ。
――でも、俺は。
俺は、その混乱の中で両腕を広げて、天に向かって叫んだ。
「ゴースト達――力を貸してくれ!!」
その声に応えたのは、地の底から沸き上がってきた、無数の声。
『了解しました、オリバー大魔王!!』
……あれは、魂のうねりだった。
ゲームの最果てに集っていた霊たち――ゴーストプレイヤーたちが、俺の呼びかけに応えた。
ログアウト不能者、意識をデータ化した者、肉体を失った者……そういう存在たちだ。
彼らが立ち上がった。
その数は、町田市民の数億倍にも及んだ。
俺は静かに言った。
「……知らなかったか?」
「全人類の生存人口総てを合わせても、ゲーム世界の参加者数の三分の一にも届かないことを」
――圧倒的だった。
ゴーストたちが作り出したバリアが、町田市民の怒りをすべて受け止めて、弾き返した。
こちらからの反撃は、必要なかった。
ただ、耐えて、受け止めて、そして圧倒する。それだけでよかった。
最終的に、町田市民は――その“死者の連帯”に、静かに屈服していった。
暴走は、止まった。
そして――俺は、一歩も動かずに勝利を手に入れた。
⸻
虚空を吹き抜ける風が、消えてしまった街の記憶をかき混ぜていた。
その中で、ハチコウが一声、勝利の遠吠えを上げた。
誰も、ジョーンズ一家に指一本、触れることはできなかった。
その日――町田シティの戦いは、“伝説”になったんだ。




