第6章「町田コロニーからのSOS」
第6章「町田コロニーからのSOS」(オリバー視点)
あの騒動の発端は、俺がログイン中に、プレイタイムを消費する為の目的で昼寝していた間の話だ。
後から聞いたところによると、マハラジャが紅茶を吹きかけたのは、LINE通話の内容だったらしい。
「……トランクで人間が届いた?」
通話の主はエミール。隣には、あの父親――レイ。
変装のつもりでサングラスかけてたけど、周囲のテンションは完全に暴走モード。
『父さん相変わらず、若作りだね。恥ずかしくないの?』
『ザイオンよー!ザイオン君!本物だわーー!』
そんな叫び声がバックで鳴り響く。
女の子達の歓声が聞こえて来る。
『お前こそ、肌の色が白過ぎるぞ』
マハラジャも苦笑交じりに聞き返した。
「今どこにいるんだエミール?騒がしすぎるぞ」
『父さんがサーティワン食べたいって言い出して、マハラジャのコロニーにある支店に来てる。今、ファンに囲まれてるとこ』
映像には、町田コロニーの一角が映ってた。
かつての東京都町田区の名前を冠した、軌道都市。農業ドームや住宅シェルターがある、ちょっと“中途半端”な未来都市だ。
「田舎臭ぇくせに、名前だけ東京なんだよな……で、なんでうちにSOS?」
その疑問に、オペレーターが答えたらしい。
「開発母体がマハラジャグループ傘下だったもので……一応、正式ルートでの救援依頼です」
ふーん、で――って感じだったマハラジャが、次に目にしたのが“トランク”の中身を撮影した動画だった。
後で俺も見せられたけど、あれはちょっと衝撃だった。
銀のトランクが開き、中から出てきたのは、古いスキャナー装置を装着した全裸の男性。
しかも、微弱な脳波信号を発してる。完全に現実に存在している“データの逆流”。
「……これ、さすがに悪趣味すぎるだろ」
マハラジャがそう呟いた後、AIが動き出した。
《対象の脳波記録、現行オンラインユニバースと一部一致》
《推定:仮想空間からの“現実側への逆流”による個体搬送》
……要するに、ゲームの中から人間が“帰ってきた”。後から聞いたんだが町田市民は、ほぼ強制参加でゲームに参加させられていたらしい。その中の数名が反乱を企てて、ゲーム会社代表取締役のマハラジャにSOSを送ってきた
「逆流現象……ありえない……理論上も不可能だったはずです」
マハラジャの顔つきが変わる。
「つまり、町田で“何か”が起きてるってことだな」
その場でレイがアイス頬張りながら、こんなことを言ってたらしい。
『町田市のLIVE最悪だったぜ!ネットのバーチャル観覧席は満員なのに、生で見に来た客がほぼゼロで空席だらけでさ……』
『ドーム町田ってデカいのに、変だよなぁ』
エミールまで虹色のアイスを掬ったスプーンを舐めながら、のんきに相槌打ってたとか。
マハラジャは呆れて言ったそうだ。
「お前ら、よくそんな状況でサーティワン食ってられるな……」
⸻
で、調査チームが町田に送られた。
けど、現地の担当者のひと言がまたぶっ飛んでた。
「……住民は“消えた”んじゃありません。全員“生きて”ます。全員、マトリックスに接続されているんです。ドーム町田の地下空間に集められて」
マトリックス――違法意識接続システム。
その名前を久しぶりに聞いた時、俺はゾクリとした。
「ええ。住民全員、自主的に仮想世界で生活してます。リアルで生きる気力が、もうなかったんです。現実よりも、そちらの方が……幸せだと」
「それはおかしいぞ!現に反乱者からの救助要請が、コッチには来てるんだからな」
マハラジャが言うと、担当者は喋るのをやめた。罰が悪そうにモゾモゾしながら。コイツ何か隠してやがる。
マハラジャが感じた違和感。
通信は途中で乱れ、次の瞬間、警報が鳴った。
《警告:町田シティ内部システムに外部からの干渉》
《仮想空間マトリックスが、外部ネットワークとリンクを開始――》
「……これって……」
「仮想世界が、現実に侵食し始めている……」
マハラジャは、すぐに命令を出した。
「オリバーに連絡を取れ。ログアウトしてるか分からんが、呼び戻せ」
「はい!」
「エミール!ラファエラにも伝えておけ。
――町田シティから、戦争が始まるかもしれないってな」
⸻
(続く → 第7章「町田バトル・ロワイヤル」)




