第2章:「gifted学園、そして5人の出逢い」
第2章:「gifted学園、そして5人の出逢い」
朝のバード邸は、いつもどおり静かで、植物の匂いに満ちていた。
……と思ったら、やっぱりあいつの声が響き渡る。
「フェイ太郎ーーーー!!」
廊下の向こうで怒鳴り声。もう察しがつく。
「また“ミケランジェロ三号”の鉢を掘ったな!?この悪魔っ!」
黒くてちょこまか動くフェレット、セーブルのホワイトミットって言うらしい。パンダに似てる顔した、両手と両足が靴下履いてるみたいに白いんだ。フェイ太郎がケイティの足元をすり抜けてく。背中を丸めて「クックックッ」って鳴きながら跳ね回る様子は、完全に挑発モードだ。
「やる気だな……こいつ……」
隣で見てたハチコウが、ため息交じりに鼻を鳴らす。
「なにさー、植物だらけの家が悪いんでしょ?」って、フェイ太郎が言い返す。声にすらイラッとくるのがすごい。
「しょうがないじゃん、フェレットの本能だもん」とラファエラの声がソファから飛んでくる。
ラファエラは相変わらず天使みたいな顔でのんびりしてて、「掘っていい鉢でも用意しようかな……“ミケランジェロじゃない号”とか?」
いや、それはちょっと笑った。
「笑えない冗談やめてよぉ!」ってケイティが言ってたけど、たぶん心の中でちょっと笑ってたと思う。
――
その頃、俺は洗面所で制服のネクタイと格闘してた。全然うまく結べない。
隣では、金髪碧眼の美少年エミールがちょこんと座ってる。見た目は9歳だけど、中身は訳ありだ。昔は誰かを庇って死にかけたボディガードで、今はHONDA製の白人クローンボディに記憶だけ移植されてる。でも、その記憶も曖昧らしくて、まるで別人みたいにおとなしい。
「……なんか、懐かしい匂いがする」とエミールがつぶやいた。
「制服の?」
「違う。ラファエラの香水。……昔、どこかで嗅いだ気がする」
「ふーん……それって記憶、戻りかけてるってこと?」
エミールは何も言わずに制服の袖を触ってた。なんだろうな、時々あいつ、俺たちよりずっと歳上なんじゃないかって感じる。
――
その日、俺たちはgifted学園の門をくぐった。
世界中の天才が集まるって言われてる、選ばれし者のための学校。
で、早速出くわしたんだ――あいつに。
寮監督官。名前はバクスター。
その顔を見た瞬間、頭の奥がギリッと鳴った。
(……あの時の……間違いない)
母さんが――ヘラが襲われたあの日の記憶がよみがえる。
ハチコウが前に出て、ガルルル……って唸り声を上げた。
「ワン! ワン! ワン!」
バクスターの顔が冷たく歪む。
「ジョーンズ君、君の犬は制御できていないようだな?」
「すみません……」って答えたけど、俺の目はあいつから逸らさなかった。
(必ず、正体を暴く……母さんの仇として)
――その時だった。
何だか外が騒がしい。
窓の外、リムジンが校門近くに停まってて、何人かの男がひとりの少年を取り囲んでいた。
マハラジャ。派手な話題ばかりの王子様だ。
寮に気に入った部屋が無いからって、マハラジャ専用の邸宅を父親が3億円払って建てたって言う曰く付きの。て、今は関係ないか。
で、いきなりだった。男たちの一人が電極みたいなのをマハラジャに突きつけて――
バチッ、と火花が散った。
(……誘拐!?)
考える前に体が動いてた。
窓を開けて、2階から飛び降りる。
「オリバー!?」「うそ、2階から!?」
ハチコウが後を追ってくる。「またかよ!」って顔してたけど。
すぐに駐車場へ。そこには、俺の相棒――ハーレーダビッドソン。
脈拍認証キーをタッチ。ブォン、とエンジンが咆哮する。
ハチコウをサイドカーに乗せて、俺はハンドルを握った。
「待ってろ、マハラジャ!」
――
追いついた。リムジンのトランクで、マハラジャが押し込まれてる。
「ハチ!」
「ワンッ!!」
ハチコウが跳んでドアをかきむしる。ガシャッとロックが外れ――
俺は身体を乗り出して、マハラジャの腕を掴んだ。
「……大丈夫か?」
「……貴様、何者だ。神の使いか?」
「いや、ただの教師の弟子さ」
――
バード邸の裏庭に戻ったら、案の定フェイ太郎が騒いでた。
「なにこの王子様!?この鉢掘ってもいいかな?」
「ダーメッ!!!」って即答されたけどな。
――
その夜、夕飯を囲んで、マハラジャとちゃんと話した。
「俺は君に借りを作った」
「そうかもな」
「返すまで、君を“直属の護衛”として雇う。給料は弾むぞ、オリバー・ジョーンズ。確かお前、聖トスゴーンの王位継承者だったよな?聖遺物を地上に引き上げるのに金がかかるんだろ?」
「……悪くない話だ。でももう一つ俺からも条件がある」
「なんだ?」
「協力してくれ。エミールの記憶を、取り戻すために」
マハラジャは笑って、「いいだろう。日本製の人形の記憶か、面白そうだな。だが無理矢理思い出させると壊れるらしいぞ」なんて言った。
「らしいな。9年前、何処かの護衛をしていて、肉体に酷い損傷を受けたらしい。その時、脳もって事だけ。俺の父親から聞いた話だけどな」
その時、一瞬だが。マハラジャが表情を歪めた。エミールが人形に移植された、事件に心当たりが有るのかも知れないな。
この日が、俺たち5人の冒険の始まりだった。