第1章 課金の神、再び降臨す
【第1章】課金の神、再び降臨す(オリバー視点)
「君の借金は、今……7兆円だ」
――朝から縁起でもない言葉を聞かされた俺は、思わず笑ってしまった。
「……少なくなったじゃないか、マハラジャ」
苦笑しながら、軌道上に浮かぶ“スカイウォーカースタジオ”の最上階。黄金のソファに背中を預けると、宇宙を背景にした巨大窓に、青く輝く地球が映っていた。美しい。が、それよりも俺の目の前に座るマハラジャ・ウォーカーの存在感の方が、はるかに重い。
「あの珍しい鉱石でできた惑星、見つけたろ? あれの評価が跳ねたおかげで、君の資産も少しだけマシになった。だからこの程度で済んでる。よかったな、オリバー君、破産まであと一息だ」
マハラジャは相変わらずだ。高級紅茶をくゆらせながら、まるで俺の借金をワインの香りのように楽しんでやがる。左腕には最新鋭の多層ブレスレット型端末――触れただけで世界が変わるって言われてるシロモノだ。
「でもな……」と彼は指を立ててきた。「まだ7兆円ある。ラファエラを過去から連れ戻すために使ったエネルギー、ブラックホールの安定化、ミニゲートの維持費、クローン研究の資金……全部俺のポケットマネーから出してんだよ」
「そこまで言うなら、最初から貸さなきゃよかっただろ」
「貸したんじゃない。“投資”だ。君ならそれ以上の価値を返してくれる。いや、返してもらう」
こっちは頭を押さえるしかなかった。
この流れ、完全にマハラジャのペースだ。
「で、任務って?」
奴はホログラムを起動した。
画面には、世界中で大ヒット中のオンラインゲームのデータが表示された。
《トスゴーン物語:オンライン・ウォーズ・ユニバース》
【グローバルランキング】
1位:MaharajaWalker(スコア:∞)
2位:黒豹(EM-BFANG)
3位:Alessandro Valkini
「お前が俺の名義でログインしてる“MaharajaWalker”アカウントが、1位から落ちるわけにはいかない。これは会社の広報戦略だ。社運がかかってる」
「で、俺がプレイヤーとして操作するわけか。“君”として」
「そうだ。オリバー・ジョーンズが“マハラジャ”として戦い続けるんだ。今まで通り。いくら課金しても構わない。とにかく勝て。君が勝てば、俺の勝ちだ。アーク・ノヴァーにある邸宅に今度上位ランキングのプレイヤーが集まるレセプションがある。そこで俺としてプレイしてくれ」
正直、ため息が止まらなかった。
「他に人材いないのかよ」
「いない。君ほどズルくて、頭が良くて、容赦のない奴はいない。お前が最強なんだよ」
「……お前、ブラック企業の社長みたいだな」
「違う。俺は“世界の王”になる男だ。で、お前は――」
肩をすくめてやった。
「借金まみれの、バグまみれの、未来科学オタク、ってとこだろ」
「大正解!」
⸻
そして俺は、家族と共にオリバー・ジョーンズ自信も、その家族も、マハラジャのプレイで招待を受けてたからだ。マハラジャの別荘がある"アーク・ノヴァ”へ向かった。
軌道ラウンジの中でも、仮想戦略施設としての重要拠点。世界中のトップランカーとエンジニアが集まる場所である場所だ。
足を踏み入れるだけで、ざわつきが広がった。
「……あれ“中の人”じゃね?」
「マハラジャって名前だけど、実際操作してるのオリバー・ジョーンズらしいぞ」
「人間の動きじゃねーって、あれは。あれはAIより怖い」
俺は無言で自分のブースに入り、仮想操作卓の前に座った。
指を動かすと、複数のモニターが立ち上がり、部隊が戦場に配置されていく。
戦略、演算、圧倒的な数値支配。
そして表示されたシステムメッセージ。
【MaharajaWalkerログイン完了】
【全フィールド、制圧準備中】
……現実じゃ、俺は借金王。
けどこの世界じゃ――
「神話」のプレイヤーってわけだ。
⸻
(つづく → 第2章『黒豹のリーダー』)




