第18章「時を越える者たち」
第18章「時を越える者たち」
――俺の記録として。
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あの日、西暦2025年の太陽は沈みかけていて、ゲート施設を黄金色に染めていた。
波打ち際に立つラファエラの横で、俺は静かに息を吐いた。
ロボット犬のハチコウは足元に寄り添い、いつでも俺のタイミングを待っていた。
「……時間だよ」
ラファエラの声が、波の音に溶けて消える。
俺は、一度だけ振り返った。
クリスタルゲートの先、タラップを駆け下りてくる白衣の姿――あれは、バーミリオン・ジョーンズ。
「オリバー! 言い忘れてた! 財務処理は全部俺がやっとく!」
「最初からやる気だったろ!」
「まあな!」
にやりと笑って、あいつは手を振って踵を返した。
その背中に、世界の混乱を整理するっていう重荷がのしかかってたはずなのに、まるでそれが“面白い仕事”か何かみたいに軽くしていた。
バーミリオンは、多分ああいう奴なんだ。
何かを背負ってる時の方が、顔が晴れるんだよ。
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ゲートの前に立ち、俺はハチコウの頭を撫でた。
ラファエラの横顔が、夕日でオレンジに染まっていた。
足元には、未来へ戻った証として並べられた銘板。
その最後には、サン=ジェルマン・マグナスの名が刻まれていた。
ゲートが起動する。
空間が歪み、光が空の色を変えていく――俺たちはまた“旅”に出る。
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その頃、別の場所では、もうひとつのゲートが動いていた。
第零ゲート。未来都市の地下に封印されていた、存在すら忘れられかけた場所。
そこにいたのは――ゼウス。そして、バーンズ・ダン。
俺の父と、俺の師。
彼らもまた、旅立とうとしていた。
「時間だ。行くぞ、バーンズ・ダン」
「了解。……記録媒体、全て積んだ」
周囲には、守護者たち。遥か空の上には冷凍睡眠から目覚めつつある「14兆円号」の乗員800人。
誰もが分かっていた。これは未来へ逃げる旅じゃない。
過去に、“真実”という名の種を蒔くための旅だってことを。
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ゲートが開いた瞬間、施設全体が光に包まれて、
――そして、5人の姿が消えた。14兆円号の姿も800人の乗組員と共に消えたそうだ。
静寂だけがそこに残されて、
まるで未来そのものが、“役目を終えた”ようだった。
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彼らが辿り着いたのは、星も月もない夜の砂漠。
ただ黒い風だけが吹いていた。
「……ここが、“起源”か」
先生が呟いた、とゼウスから後で聞いた。
“旧約聖書”と呼ばれる時代。
何もないこの場所から、未来を変える神話が始まる。
タラップが開き、「14兆円号」から次々に人々が降りてくる。
彼らはこの地が、後に“楽園”とも“地獄”とも呼ばれることなど知らない。
だけど、それでよかったんだと思う。
冒険は、知らないからこそ歩き出せる。
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俺たちはその頃、再び歩き始めていた。
ラファエラと、ハチコウと。
ゲートをくぐって戻ってきたこの世界で、
次の再会を――仲間との再会を目指して。
(第18章・完)
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