第16章「2022年のインディアナ・ジョーンズ」
第16章「2022年のインディアナ・ジョーンズ」
(オリバー・ジョーンズ記録)
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冒頭:CGで作られた戦場
あれは、後からラファエラに聞いた話だ。
2022年、俺がまだ彼女を見つけ出せずにいた頃、ラファエラは“ある男”と再会していた。
名を――バーミリオン・ジョーンズ。
俺の記憶が正しければ、インディ・ジョーンズの子孫を名乗っていた考古学者。そして俺の祖父だ。
だが、あの時代の彼はもう違った。
考古学者ではなく、戦争プロデューサーという肩書きで、偽りの戦場を操っていたらしい。
街の廃墟に見えるセット。爆煙、瓦礫、崩れたビル。
空には何十機ものドローンが飛び交い、プロジェクションマッピングで爆撃を“再現”する。
スタイロフォームの壁。血糊を塗られた俳優たち。
叫び声すら音響スタッフによる演出だというのだから、呆れるしかない。
けれど――
世界中の人々は、その虚構を“リアル”だと信じていた。
「カットォォ! 弾痕の位置ズレてる! 戦車は10秒後に通過って言っただろ!」
現場ではスタッフが怒号を飛ばしていたという。
そう。**これは、戦場ではなく“撮影現場”**だった。
それが“優しい戦争”の始まりだったらしい。
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**“優しい戦争”のはじまり**
ラファエラは、あのセットの上層部――仮設スタジオに立つバーミリオンを目撃したそうだ。
戦場を作り、メディアで煽り、武器を売る。その仕組みを、彼は笑いながら語ったという。
きっかけは、一本の銃だった。
睡眠銃。
致死性ゼロ。相手を深い眠りに落とすだけの、“やさしい”兵器。
あれは、元々俺たちの時代の技術だ。
……そう、俺がラファエラに未来でわたしたものだった。
彼女が“ラス”と呼ばれていた時期に持っていた、それを、バーミリオンが密かに入手し、量産を始めたのだという。
俺の知らぬところで、過去が動き出していた。
そして未来にあったはずの武器が、2022年の地上で拡散されていた。
彼女が話してくれた。
工場のラインがフル稼働し、グレーのパーツが次々に組み上がる。
銃口が取り付けられるたびに「カチリ」と音が鳴り、それが数百、数千と並ぶ。
「500丁完成、次は1000丁」
「東アジア圏は追加発注。バーチャル戦場とセットで」
「SNSで“正義の眠り”キャンペーン、バズってます」
彼らのやり取りをラファエラは背後から聞いていたという。
バーミリオンは、書類をめくりながら小さく笑ったそうだ。
「戦争は、もう死を必要としない。
映像で煽って、睡眠銃をばらまくだけで“正義”が演出できるんだよ」
そのとき、彼はラファエラに言ったという。
「君は英雄になる。ラス、君は世界を救う“物語”の主役だ」
ラファエラは、その言葉を「滑稽だった」と笑った。
彼女はそんなヒロインになる気はなかったから。
けれど、心のどこかでは――その言葉に縋りたい自分もいたとも語っていた。
あの頃の彼女は、ひとりだったから。
バーミリオンは、それを知っていて手を差し伸べた。
未来からやって来たラファエラを、“現代の救世主”として仕立て上げたかったのだろう。
だが――俺にはわかっていた。
バーミリオン・ジョーンズという男が、本当に求めていたのは、
“戦争すらエンタメに変える力”だった。
その先で、世界はどうなったか――
それは、また次の章で語ることにする。
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第17章へつづく
(記録者:オリバー・ジョーンズ)




