第13章「眠れぬ天才と成長する想い」
第13章「眠れぬ天才と成長する想い」
(同・オリバーの回想録より)
俺は、あの頃ほとんど寝てなかった。
工房の明かりは、夜になっても消えなかった。
いや、むしろ夜になってからの方が明るかったかもしれない。
バーンズダンから貰った水陸両用ハーレー。
ラファエラが最後に乗っていたそれに、タブレットを繋ぎ、俺は反応核の波形を一つずつ調べていた。
「この位相偏差……また狂ってる。反応核の干渉波、補正できるか……? 潜水機能も付けなきゃな……」
いつから何も食べてないかも覚えてなかった。
眠気はとうに通り過ぎていた。
そのときだった。
静かに工房のドアが開き、リリカが現れた。
「オリバージョーンズ、二日間寝てないんじゃない? 何日、食べてないの? 死んじゃうわよ?」
「……悪いな、リリカ。アドレナリン爆発で腹減ってないんだ」
「食べなきゃダメよ! ラファエラを助けに行くんでしょ? 少なくとも薬を飲んででも、一日八時間は寝なさい!」
怒ってるんだか、心配してるんだか――いや、両方だったと思う。
ホットドッグを差し出してきた彼女の手には、薬瓶まで握られていた。
「……ありがとう。でも今手がオイルでベタベタなんだ。それにトイレも我慢してた」
「もう! 早く行ってらっしゃい!」
言われるがままにトイレへ向かい、戻ってきてようやく、俺は一息ついてホットドッグを手に取った。
「美味いね、これ」
「サブェイのホットドッグだから。言っておくけど、地下鉄駅じゃないわよ。日本の有名なサンドイッチ屋さん」
「やっと近所にできたんだ……!」
「そう、最近よ。物凄い行列だったの。だからこのリリカさんに感謝なさい!」
「……ありがとう、リリカ。物凄く美味しいよ」
「エミールはどうしたの?こんな時、何時もあなたの世話を焼いてるのはあの子か、ラファエラじゃなかった?」
「さあ?何処かに行くって言ってたやうな‥」
そう言ってから二口目を頬張った瞬間、急に視界が揺れて――気がついたら、俺は彼女の肩にもたれかかっていた。
「ちょ……ちょっと……!」
薬が効いたんだと思う。というか、完全に限界だったんだろう。
彼女は動かず、俺を受け止めてくれていた。
そのとき、俺は寝言を漏らしたらしい。
「ラファエラ……きっと君を、助けに行く……」
あとでリリカに聞いた話だが、それを聞いた彼女の胸は、きゅっと痛んだらしい。
(私じゃ……やっぱり、駄目なんだよね……)
でも――物語はそこで終わらなかった。
「リリカ!」
工房のドアが開いた瞬間のことは、今でも彼女から聞くと笑ってしまう。
そこに立っていたのは、金髪の長身美青年。
「そんな馬鹿学者、捨てちまえよ」
彼は俺を軽々と持ち上げ、ハチ公の隣のクッションに乱暴に寝かせると、涼しい顔で言ったそうだ。
「この一週間かけて、君に相応しい姿に成長したと思うんだけど……まだダメかな?」
「……もしかして、エミール?」
「そうだよ。クローンボディはね、1週間入院すれば好きな年齢に成長できるんだ」
(姿、こんなにカッコよくなるなんて……詐欺よね)
って、リリカは顔を赤らめたらしい。
「……俺じゃダメかな?」
エミールはそう言って、いたずらっぽく微笑んだという。
あの日からだ。
リリカが「エミールと付き合うことになったの」と、俺にこっそり報告してきたのは。
嬉しかった。
ちょっとだけ、寂しかったけど。
でも、あの頃の俺には、それどころじゃなかった。
なにせ、ラファエラを迎えに行くための“時間航行バイク”の調整が、まだ終わっていなかったからな。
(第14章へつづく)




