第12章「時を越えて、ラファエラ」
第12章「時を越えて、ラファエラ」
(オリバー・ジョーンズの回想録より)
gifted学園の夕暮れは、妙に静かだった。
ラファエラが――クリスタルゲートの暴走とともに姿を消してから、あの学園はどこか色を失ったような感覚に包まれていた。
制御実験の失敗。
いや、“一時的な転送エラー”というのが教師たちの公式な説明だった。
でも、それを真に受けていた生徒は一人もいなかった。
みんな、バード邸の庭からその瞬間を目撃していたからだ。
まるで光そのものに飲まれるように、ラファエラの姿が掻き消えていくのを。
──“まさか、過去に?”
誰かがそう呟いていた。
エミールは、その日から空を見上げる癖がついた。
彼の心に芽生えたものが“焦燥”だと気づいたのは、ずっと後のことだ。
──
そして、彼女は2022年の海辺にいた。
聖トスゴーン近海の未開発エリア。
古びた岩礁と砂浜。誰も足を踏み入れぬ小さな入り江で、ラファエラは目を覚ました。
「……ぅ……ん……ここは……?」
制服は破れ、髪は海水で濡れて額に張り付いていた。睡眠銃は彼女の腰に巻いたポーチに入っていた。
薄く開いた目の奥にあったのは、茫然とした“現在”の欠如。
その足元を、奇妙な生き物が横切った。
双頭の蛇だった。
しかも、その背には金属のような発信機が埋め込まれていた。
「……居た居た。やっぱり、発信機埋めといて正解だったな」
その声に反応して現れたのは、赤いトレンチコートを翻し、風に栗色の髪をなびかせた中年の男。
考古学者――バーミリオン・ジョーンズ。
「こんな所に居たのか、俺の蛇。まさか、女の子を先に見つけるとはな……」
彼はラファエラに歩み寄り、その顔を覗き込んだ。
「お嬢さん、目を覚ましな。……時代を越えて来たみたいだな。名前は?」
「……ラファエラ。……ラファエラ・バード」
「なるほど。“ラス”か。噂の名前だな。面白くなってきた。俺の名前はバーミリオン・ジョーンズ。あの有名な考古学者インディアナ・ジョーンズの子孫さ」
「バーミリオン・ジョーンズ。オリバーのお爺ちゃんね」
彼女の“新たな冒険”は、そこで始まった。
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