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パンダの小説 オリバージョーンズの冒険  作者: 天才パンダ


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第11章:「ラファエラの誕生日とバミューダの呼び声」

第11章:「ラファエラの誕生日とバミューダの呼び声」


(オリバー・ジョーンズの回想録より)


初めてのプロムパーティーから、もう8年が経っていた。


リリカは医師として学園の医療棟で働いていて、エミールも、ケイティも、ラファエラも、そして俺自身も、gifted学園の最終学年に在籍していた。

マハラジャはというと、卒業したはずなのに何食わぬ顔で毎週のように学園に顔を出しては、サロンのソファでチャイを飲んでいる。

誰も注意しないのは、まぁ、彼がマハラジャだからだろう。


あの日、ラファエラが18歳になったあの朝のことは、今でもはっきりと覚えている。

バード邸――ケイティの植物園みたいな家の中が、珍しく静かだった。

いつもは朝から蘭やら食虫植物やらが開花して“花の爆発”が起きていたけど、その日は違った。

理由は、ただひとつ。妹、ラファエラのためだった。


エミールは夜明け前から目を覚まして、キッチンに立っていた。

バターと卵の香ばしい匂いが漂い始めた頃、俺が目を覚まして台所に入ると、彼はすでにフレンチトーストを焼き終えていたところだった。

外はカリッと、中はとろけるような、まさに理想的なやつだ。


「おはようございます、ラファエラ」


眠たげに髪をかき上げて椅子に座るラファエラに、エミールが穏やかに言った。

彼女は微笑んで、深く香りを吸い込む。


「ありがと、エミール……ん、いい匂い」


エミールは無言で頷いて、フレンチトーストの皿を差し出した。


その頃の俺はというと、テーブルの隅で小型デバイスをいじっていた。

gifted学園が極秘で保管していた睡眠銃――明日、海洋研究所へ届ける予定だったそれを再調整していた。


「ラファエラ、ハーレー乗りたがってたよね。明日の昼にこれ、海洋研究所まで届けてくれないかな?皆、待ってるらしいよ」


俺が言うと、ラファエラは顔を上げた。


「私にも乗れるの?」


「うん、もう設定し直してある。今日のうちに2、3時間くらいツーリングしてきてもいいよ」


「嬉しいー……ありがと」


ラファエラはそれ以上何も言わなかったけど、たぶん彼女の中で何かが決まったのだと思う。

この時点で、彼女はもう“ついでに”睡眠銃を届けに行くつもりだったんだろう。


——


午後になって、ケイティが温室に籠った。

「誕生日のために特別な花を咲かせたいんだ」って、いつになく真剣な顔で。

その横ではエミールが、鉢植えを掘り返そうとするフェイ太郎と格闘していた。


「ダメ! これは“ミケランジェロ4号”だぞ!前回怒られたの覚えてないのか!」


「しょうがないじゃん、本能だもん……」


フェイ太郎は背中を丸めて「クックック」と鳴いた。

その様子を見ていたハチコウが、ふてくされたようにソファの上でそっぽを向いていたのも、思い出すと笑えてくる。


——


日が傾き始めた頃、俺の端末に本部から通知が届いた。

バミューダ海域で“周期的エネルギー異常”が発生したという報告だった。


それ自体は珍しくなかった。

3年に一度の周期で、地殻が揺れて海流が変化し、クリスタルゲートの周辺が異常反応を起こす現象。

俺たちの研究対象のひとつだった。


ただ、その時――俺は、妙に嫌な予感がした。


「……おかしいなぁ。ラファエラ、帰ってこないんだよ。折角花が咲き出したのに」


温室から戻ってきたケイティが、顔を曇らせて言った。


リビングには、クラスメートたちが集まり始めていた。

日本のパティシエが特別に作ってくれた、大きな苺のケーキ。シャンパン風の炭酸飲料。花と風船。

皆がラファエラのために集まって、準備を整えていた。


でも、主役だけが、戻らなかった。


——


あとになって、俺は彼女が言った言葉を思い出した。


「……忘れてた。あの日、私の誕生日だったんだね」


呆れたように、でも少し照れくさそうに笑いながら、ラファエラは言った。

きっと彼女は、あの時、ただ“届けるだけ”のつもりで海に向かったんじゃない。

何かが、彼女を呼んでいた。

バミューダの、あの深く静かな“声”が――彼女にだけ届いていたのかもしれない。


あの海域は、過去を映す。

忘れかけた記憶や、過去の断片を、断ち切れないままに呼び戻す場所だ。

ラファエラも、きっと、思い出していた。

プロムの夜のこと。

俺たちが出会った日々のこと。

あの時、手を握ってくれた誰かの温もりを。


それが、どんな意味を持っていたか、俺にはわからない。

ただ、あのとき俺たちは皆、彼女の無事を祈っていた。


そして俺は、あの夜を境に――

彼女のことを“友達”とは、もう呼べなくなった。


それほどに、彼女の存在が、俺の中で大きくなっていた。


(第12章へつづく)

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