保健室登校
授業が始まってからしばらくのこと。
始業式以来姿を見せない俊に、クラスメイト達も疑問に思っていた。
きれいな転校生が来たと、他のクラスから女子生徒が何度か教室を覗きに来てはいたが、姿が見えずがっかりしたように帰って行く様子を何度かみていたクラスメイトも、さすがに何か理由があるのかなと疑問を抱き始めた頃だった。
そしてその日も、俊は一度も教室へ行くことはなく、全ての授業が終わる。
他の生徒達が帰って行った後に俊は担任のいる職員室に顔を出し、プリントを渡して帰宅していた。
そんなコトもあって、圭は何処かモヤモヤした気持ちを抱えていた。
それから暫くして、圭も帰宅しようとしたところ、保健室から養護教員の来栖美沙都(くるす
みさと)が出て来るのが見えた。
圭はグッドタイミングとでも言うように、美沙都に声を掛けた。
「ヤッホー、美沙都ちゃん。」
「こら、先生をちゃん付けで呼ばないの。一之瀬君」
「えー、いいじゃん別に。それよりさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……今良い?」
「ええ、何かしら?」
「ちょっと、俊のことなんだけど………中で話してもいい?」
そう言うと、美沙都は少し考えてから保健室の鍵を開け、「どうぞ」と促した。
保健室の中に入り、長いすの方に座るように言い、持っていた道具を机に置いてから、美沙都もその隣に座った。
「それで、架山君の何が聞きたいの?」
「………あのさ、俊が保健室登校をしてるのって、何か聞いてる?」
「あまりプライベートな部分は聞かないようにしてるから、私も詳しくは知らないわ。ただ、担任の先生からは、事情があって教室には行けないみたいだから、此処で面倒みてくれって連絡があっただけよ」
「そっか………でも、それってやっぱ前の学校でなんかあったから、なんだよね?」
「たぶんね………まぁ、原因はわからなくもないけれど。でも、これは本当に個人のプライバシーに関わることだから、あまり深入りはしちゃダメよ」
そう釘を打たれて納得はいかないが、圭にもなんとなくの事情がわかった気がした。
そう、前の学校であったことは…おそらくいじめだ。
小学生の時も、無口で大人しいことが理由でよくからかわれていた俊は、格好のいじめられっ子だったから。
もしそれが本当なら、やはり美沙都の言うようにあまり深入りをしない方が、俊の心の傷を下手に刺激させないで済むのかもしれないけれど。
それでも、正義感の強い圭だからこそ何もせずにはいられなかった。