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一時の安らぎ

昼休み、珍しく呼び出しの来ないことがたまにあり、そんなときは中庭の一角にあるベンチで休んでいる俊。

そこへ、彩希が声を掛けてきたのだった。


「こんにちは。隣、いいかな?」


自然に接してくれる彩希に、悪意は感じず、俊は隣に座れるだけのスペースを開けて、頷くと「ありがとう」と笑顔で返す彩希に、俊は少しだけ安堵の表情を浮かべる。


「ねぇ、今何してたの?」

「………特に、なにも」

「此処、静かで落ち着くね………。もしかして、お気に入りだったりする?」

「………別に、そうでもないけど」

「そっか………」


そんな他愛のない会話をし、静かな風がふたりを撫でるように吹き抜けていく。


そしてふと、彩希はこんな事を言い出した。


「架山くん、本当はもうこんなこと、もう辞めたいんじゃないの? 無理してまですることじゃないよ。こんなの、おかしいに決まってる。この学園の生徒も、教師も、皆狂っているわ。こんなの普通じゃない!」


彩希の言葉に、俊は無言で耳を傾ける。

それは以前、自分も思っていたことで、でも、今は状況も立場も変わってしまって、なにも言い返せない。


「………そう思っていても、結局は何も出来ないじゃないか」

「そうね………でも、何もしないより、行動してから後悔した方が良いじゃない?」

「後悔………」

「そう。私ね、本当はこの学園、あまり好きじゃないよ。こんな階級が当たり前に存在していて、教師たちも黙認しているなんて。絶対納得いかない。いつかこの学園で起きてる事、世間に公にして、無くしたいんだ」

「………無理だよ、そんな事しても、結局は権力者によって捻伏せられるだろうし。何されるか分からないよ?」

「そうね、でも例えどんな事があっても、私は私の意思を貫くよ。だから、架山君も、どんな事があっても、絶対に諦めないで」


そう言い、彩希は俊に微笑みかけた。


前向きで、問題に真っ正面から向き合おうとする彩希の姿に、俊は淡い希望を持ち始めていた。

けれど、現実はそう簡単にはいかなくて…。


俊のスマホに、章裕からのLINEのメッセージが届く。


「………ごめん、呼び出しだ」


その言葉に、彩希は悲しそうな表情を浮かべて「また、話そうね」と言い、俊は微かな笑みを浮かべて別れを告げると、章裕に呼び出された場所へと急いだ。


結局、それから状況は変わることなく、俊は下僕的な扱いを受ける日々が続いた。

彩希もまた、俊が無理矢理押し付けられた仕事を手伝ってくれたり、毎朝必ず、「おはよう」と声を掛けたり。

そうして彩希は俊を庇うようになっていった。


もちろん、周りの者達は、彩希のそんな姿を白い目で見ていて、中には気に入らない者もいた。

彩希のLINEに「偽善者」「何様のつもりだよ」「ウザい」といった内容のメッセージが送られるようになり、体育の着替えの時には写真を撮られて、その画像を拡散されたりと、友人として付き合ってきた者達が、次々に態度を変え、彩希を貶めていくようになった。


それでも彩希は、変わる事なく、今まで通りに接していた。

そんな健気な彩希が、俊にとっては唯一の支えだった。

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