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二本松の代名詞の一つとも言える『菊人形』を紹介できたことで、全くの異邦人であるハルカさんにも雰囲気的なものを伝えることができたような気がする。俺としては勿論他にも紹介しておきたい場所はあった。ただそこは『ちょっとした危険性』のある場所だから実際に行くかどうかは正直迷っていた。でも話を聞く限り同年代(?)と思われるハルカさんならば興味を抱いてくれるだろうということも想像できていたし、何より距離的には目と鼻の先だから行かない方が不自然という感じ。



「ハルカさんに見てもらいたいのは俺が通ってる「高校」です」


「あ!義博くん、最初に会ったときに制服姿だったから近くに学校があるんじゃないかって思ってた!」


「あの日は学校帰りだったんです。まさかハルカさんのような人に会うとは想像もしませんでしたけど」


「えへへ」


ハルカさんのやけにキュートなスマイル。お城山から道を下り、自分も何度か来たことのある小学校のグラウンドを眺めながら直進すればすぐ普段見慣れた光景が目の前に広がる。とここでハルカさんの基本的な事項について疑問が生じた。


「ところでハルカさんって俺と同い年くらいですよね?俺先月誕生日で今16歳なんですけど」


「あ、うん。わたしも…そのくらいの歳だと思う」


予想外に歯切れの悪い答えだったので何故なのか訊ねてみたら、


「わたし達の世界だと一年がこちらの世界の約300日だとされているの。その世界でわたしは19歳だから計算すると…」


「15歳と7ヶ月くらいですかね」


「えっ」


「あ、俺まあまあ数学得意なんで、計算は早い方です。そっか完全に「同学年」ですね」


「でも15歳って言われちゃうと随分子供っぽく聞こえちゃう」


「そちらの世界で15歳だとこちらの世界に換算すると12歳くらいですもんね。まだ子供のイメージですね。かと言って19歳と言われたら、もうこちらの世界では『大人』ですよ。法律変わったし」


「不思議な感じがするね」


そんなトークを続けている間に目標地点が完全に視界に入る。一応名前は伏せておくが、市内に二つある高校のうちの一つの普通科の高校。女子が古式ゆかしいセーラー服着用の高校という特徴があるし、有名なミュージシャンがここの卒業生という話もある。友人の高宮に言わせると「個性がないのが個性のジムみたいな学校」らしいが、ハルカさんに校舎の外観を見てもらったら全然違う印象らしかった。



「わあぁ!!こういう学校わたしの『憧れ』です!!女子はセーラー服なんですか!」


「やっぱりハルカさんがイメージする高校ってこんな感じですよね」


「はい!アニメと同じです!」


こういう反応は初めて日本に来た外国人と同種のものだとは思う。ただ、ハルカさんの表情や声のトーンから伝わってくる感激とか感動がそれより一段階くらい大きい。母校ではあるが中々立派な校門の前で、クラスメイトの影が無いかどうか確認しつつ彼女に基本的な事項を説明する。拙い説明ながらも頷いてくれたのであとは豆知識的に「珍しいことにカヌー部が存在するんです」と言ってみたところ反応が薄かった。


「カヌーって食べ物ですか?」


「えっと…そうではなくて」



この例のようにハルカさんの会話は大枠で理解が共通していても微妙に食い違うところがあるのが難しいと感じる。説明に迷ってしまい「舟を漕ぐんです」としか言えなかったのが少し心残り。川で実物を見てもらえれば一発だろうけど、とりあえずスマホの動画でカヌーの様子を見てもらい納得してもらった。ついこの間行われた学祭の時ならば立ち入りは自由なのだけれど、流石にハルカさんにはここで我慢してもらうことに。見るからに残念そうな表情を浮かべるハルカさんではあったけれど俺が思わず「警備員とかもいるのかなぁ」と口走ってしまったら表情が固まる。



「そういえばこの辺りに警察がいたりはしないですよね?」



異世界の人にとってはどうあっても『警察』は恐ろしいらしい。半ばトラウマになっているんじゃなかろうか。市内に警察署はあるが、高校の方面には交番はなかった記憶。町を移動しているとたまにパトカーの巡回はあったりするがそこまでいつも警戒体制では無いだろう。



「悪いことをしているわけじゃ無いんだから大丈夫ですよ。それにハルカさんは服装は目立ちますけどが外国人に思われると思いますよ」



その言葉で幾らか安心したらしい。「それにこの辺りは基本的に田舎ですからね」と告げたら「あ、うん」と納得してくれる。ある意味で都会に降り立つよりも田舎に来た方が都合がいいという話なのだろう。時刻はなんだかんだで13時になっている。外気も暖かいので『ナ・ガータ』までの道のりをゆっくり歩いてみることに。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



『街歩き』という言葉はあるが、わざわざ地元で街歩きをしようとは思わない。だが、この世界の事をあまり知らないハルカさんの新鮮な驚きが随所で見られ、「あの建物はなんですか?」と訊ねられる度にスマホを駆使しで情報を調べていったせいか、俺個人としてもこの一日でいろんな発見があった。同時にハルカさんの世界についてこの世界との違いから断片的ではあるけれど情報が得られて想像が広がる。話を聞きながら情報をスマホに細かくメモしていたら、


「『ヨシ君』は几帳面ですね」


と彼女が言う。


「「ヨシ君」って俺の事ですか?」


「はい。なんとなくそう呼んでみたくなりました」


「じいちゃんにそう呼ばれます」


「「ヒロ君」の方が良かったですか?」


「いえ、ヨシ君でいいですよ」


「わかりました」


些細なやり取りではあったけれど愛称で呼ばれるのは悪い気はしない。無事『ナ・ガータ』が見えてきたところでハルカさんに注意事項を説明しておく。


「ハルカさんは『ナ・ガータ』にお客として入店すればいいんです。そして最初に二人でカフェで注文しておきましょう。コーヒーを飲み終わったら、展示室を見学することにすればとても自然です」


「そこでわたしが扉から戻ればいいんですね!」


意外とシンプルな作戦ではあるものの、こちらの世界に来るハードルに比べれば『帰還』はかなり難易度は低い。入店してみると時間帯的にもお客さんはそれほど多くない様子。計画通りに実行しちょっとしたアリバイ作りもあり店主がコーヒーを運んできてくれたタイミングで、


「今日は彼女にこの町を案内していたんです」


と伝えてみる。店主は「へえ、そうだったのかい」とにこやかに微笑んでくれた。この後二人で展示室に入れば実質「密室状態」だから中で超常現象が生じていようが怪しむ者はいない手筈。念の為カンカラおじさんこと「菅野力氏」の不在を確かめて準備は万端と言ったところ。コーヒーの会計を済ませて、


「今日も展示室に見学させて下さい」


と伝え見事作戦は成功。



したかに思えた。少なくともこの時点では何も問題が無かったのだ。



「今日は本当にありがとう。この埋め合わせはいつか必ずします」



別れの握手を交わし、いつ会えるかは分からないもののリスクを考えると事実上これが最後とも思う部分もない訳ではなかった。だからこそ予算をケチらなかったという話をすれば納得してもらえるかも知れない。


<なんか俺、大人になったような気がするなぁ>



などと感慨に耽りそうになりながらハルカさんを後方で見守っていると、前と同じようにカンカラおじさんの作品であるあの奇妙な扉の向こうが突如として暗闇に包まれ、ハルカさんがこちらを振り返りながら手を振り、片方の腕を暗闇の向こうにめり込ませる。そんな異様な瞬間に、ガラガラと展示室の奥の「搬入口」の扉が開く音が。



あ!!!!



と思ったが時すでに遅し。最悪のタイミングで展示室に入ってきたカンカラおじさんにハルカさんの腕が扉の向こうにめり込んでいる様子を目撃され、驚愕するハルカさんとカンカラおじさんの目が合ってしまう。


「お前ら何してんだ?」



意外にも落ち着いた声で同じ体勢のまま固まってしまった俺達に話しかけてきたカンカラおじさんはその時何故か『パンダ』の着ぐるみ姿だった…。

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