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Das Heldenlied   ヘルデンリート 20 Die Hymne  作者: Siberius
シエルの章
4/59

シエル――ユリエッテ

セリオンはセレネにトレジャーハントの件を告げて、ベルジュと共にクヴィンツを後にした。

セレネは少し心配そうだった。

セリオンとベルジュはベルギカ(Belgika)という村に着いた。

その日は夜も遅いので、村の宿屋に泊まることにした。

次の日の朝、セリオンは一人の女性が重い荷物を持っているのを見かけた。

セリオンはその女性に近づいて。

「重そうな荷物ですね。俺が代わりに持ちますよ」

女性はセリオンにたいそう感謝して。

「いいのですか? それではお願いします」

女性は自らの名をフィオラ(Fiora)と名乗った。

セリオンはフィオラの家まで荷物を運んだ。

ベルジュはセリオンのお人よしぶりにあきれていた。

「せっかくですから、私の家で食事をしていってください」

セリオンとベルジュは互いに顔を見合わせてからうなずいた。

セリオンとフィオラはジャガイモのはいったコーンスープをごちそうになった。

「おいしいですね。このあたりではジャガイモを栽培しているのですか?」

とセリオンが聞いた。

「はい。畑でジャガイモを育てております。私どもの家ではこのくらいしかおもてなしできませんが……」

「なんだ、これだけか。なあ、おばさん、酒はないのか?」

「ベルジュ!」

セリオンが割り込んだ。

「はいはい、わかった、わかったって。酒はなくても我慢するさ」

「お母さん、誰か来ているの?」

部屋の奥から声がした。

「誰か、奥の部屋にいるのですか?」

「はい。紹介できなくて、ごめんなさい。

あれは私の娘ユリエッテ(Juliette)です。

「じゃあ、あいさつしてくるか。こんにちは、ユリエッテさん」

「こんにちは、お客様。名前は何とおっしゃるの?」

「セリオンだ」

「セリオンさんね」

少女はパジャマを着たまま、ベッドから起きていた。

上に一枚カーディガンをはおっている。

「君はベッドから起き上がれないのかい?」

「私は寝たきりなの。だから、これが私にできる最高のおもてなしなの」

「ユリエッテ! 無理はしなくていいのよ! さあ、寝ていなさい」

「うん、わかった。お母さん。ごめんね、セリオンさん」

「いや、気にしなくていい」

セリオンに謝ると、ユリエッテはベッドの中で横になった。

「すいません、セリオンさん。娘はこのとおりでして……」

「いえ、気にしないでください。それにしても……」

セリオンはユリエッテを見て違和感を感じた。

何とも言えぬ禍々しいオーラが漂っていたのだ。

「セリオンさん、申しわけありませんが、このくらいで下がってくださいませんか。娘の体調は思わしくないので……」

「ええ、そうですね。じゃあ、またな、ユリエッテちゃん」

セリオンはベルジュとフィオラのもとに戻った。

「娘さんの病気は何なのですか?」

「それが、お医者様に診せてもわからなかったのっです。それにうちは見ての通り貧しい家でして……都会にいるお医者様に診せるおカネはありません」

「俺が思うに、娘さんは何かにとりつかれているのではないでしょうか?」

「そんな!?」

フィオラは驚愕した。

「おい、セリオン。まさかあの子の病気を治療しようなんて言うんじゃないだろうな? そんな無駄なことに時間を使いたくはないぞ? 俺たちにはブールジュ山に行くっていう目的が……」

「これは俺の仕事だ。ベルジュは手伝わなくていい。どこかで暇をつぶしていろ」

「かー! おまえって奴は…… ああ、わかった! 俺は自分の好きにさせてもらう! じゃあな!」

ベルジュは怒って出て行った。

「あの、よろしいのでしょうか……?」

フィオラが心配そうに尋ねてくる。

「安心してください。こういうのは俺の専門ですから」

セリオンはユリエッテと話をした。ユリエッテは歩けるようになったら花を植えたいと言った。

それからセリオンはユリエッテといっしょに過ごした。

ベルジュは不平を言って、宿で酒を飲んでいた。

宿の一階にて。

「おそらく、ユリエッテは精神を犯されている。それが寝たきりの原因だ」

「ふーん、それで?」

「……おまえはあの子を見てもなんとも思わないいのか?」

「別に。ガキなんてめんどくせーだけだ」

「あの子がかわいそうだとも?」

「ぜんぜん、おもいましぇーん」

「まあいいさ。おまえみたいな薄情な奴にはわからないだろうが、宗教者としての俺には義務がある。俺は彼女を救いたい。救える命を見捨てることは俺にはできない」

「いいんじゃねーの。おまえがそうしたいならそうしろよ。でも、できる限り早く解決してほしいね。

ブールジュ山のお宝が逃げる前にね」

「ブールジュ山のお宝には羽でも生えているのか?」

「いや、そういうわけでもないが……それはもののたとえというか……、ああ、いいさ。俺が酒で気晴らししているあいだにどうにかしてほしいね」

「ああ、わかった。俺はこれから彼女のことについていろいろ聞いてみる。そして、この事件を解決するつもりだ。それじゃあな」




セリオンはフィオラのもとに行って、ユリエッテのことを尋ねた。

「フィオラさん、ユリエッテはいつごろから寝たきりになったんですか?」

「それは一年ほど前からです。一年前、バラ園に行ったときに倒れて以来ですね」

「もしかしたら、俺の考えが正しければユリエッテの病気は治るかもしれません」

「!? 本当ですか!?」

「今、ユリエッテは?」

「眠っています。最近はよく眠るようになりました。それと同時に、体がやせ衰えてきたような気がします。わたくしどもが貧しいせいだと思いますが……」

「ユリエッテはどのくらい食事を食べるんですか?」

「最近はあまり食べません。食欲がないそうで……」

フィオラは下を向いた。

セリオンがそれをまっすぐな瞳で見つめる。

「そうですか……今ユリエッテが眠っているのなら、私が自らの精神をユリエッテの精神のもとまで入らせます。あとは俺とユリエッテとのリンクが切れないよう、あなたには周囲を見張っていただきたいのです。できますか?」

「娘を救ってくださるのなら、私は何でもやります!」

「わかりました。それでは始めましょう」

「お願いします! 娘を救ってください!」

「俺にできる限りのことはしますよ」

セリオンはユリエッテの部屋に入った。

確かにフィオラが言ったように、ユリエッテは少しやつれているような気がした。

セリオンは自分の手をユリエッテの額に置いた。

そして、精神を集中させて、ユリエッテとのリンクを作った。

一方、フィオラの家の裏には、両腕を組んだベルジュが立っていた。

顔は多少いら立っているようだった。

セリオンはユリエッテの精神世界に入った。

まず、セリオンは花畑にいた。花畑では小さなユリエッテが花のにおいをかいでいた。

「ここが、ユリエッテの精神世界か……ユリエッテの思い出が見えるな」

セリオンはユリエッテの後をついて行った。

ユリエッテは木の近くまでやってきた。

そこは森の入口だった。

ユリエッテの過去の思い出が再現される。

「ねえ、君」

「?」

セリオンはユリエッテに話しかけてみた。

ユリエッテは振り返った。

「そこで、何をしているんだい?」

「チョウチョがいたの。それで、チョウチョを追いかけてきたの。でも、森の入るのは危険だからって、お母さんに言われているから入らないの」

「そうかい」

するとユリエッテは川の近くにまでやってきた。

「君はどうして川にやってきたんだい?」

「川の流れを見てみたくて。流れている水がきれいだから」

そうしてユリエッテはバラぞのにやってきた。

「ここは……バラ園か……ん? あれは?」

ユリエッテの前に影のようなものがあった。

影のようなものはユリエッテを失神させると、ユリエッテの中に入った。

「これが事件の真相というわけか。ん? ユリエッテ?」

ユリエッテがセリオンのほうを向いた。

「ふふふ……バカな人。ここに来なければ死ぬこともなかったろうに」

「おまえは何者だ?」

「私はこの娘にとりついている者。この娘に寄生し、精神と肉体のエネルギーを喰らっている」

「その娘から離れろ」

「ククク、それはできない。でも、その代わりに、この私の真の姿を見せてあげよう」

ユリエッテの体が闇でおおわれた。

そして、その中から闇のオーラをまとった影が現れた。

「我が名はクローマティ(Kroomati)。影魔えいまクローマティなり」

「おまえが諸悪の根源か! なら話は早い! 俺はお前を倒す!」

セリオンの手には神剣サンダルフォンが握られていた。

これは精神の戦いである。

つまり、精神体を殺されれば死ぬことを意味する。

クローマティは深い闇の波を出した。

クローマティの影出かげいで

セリオンは光の大剣で影出を斬りつけた。

光と闇の衝撃が広がる。

クローマティは影をセリオンの前まで伸ばし、その中から魔獣の頭を持つ牙を出した。

セリオンは光の大剣でそれを斬った。

クローマティは影でできた剣でセリオンを突き刺そうとしてきた。

クローマティの影剣かげけんである。

セリオンはとっさに身を伏せてそれをかわした。

影剣はさらにセリオンを貫くべく襲い掛かってきた。

セリオンは転がって、それらを回避する。

クローマティは手から影剣を出してセリオンに投げつけた。

セリオンは光の大剣でそれらを迎撃した。

クローマティは闇力あんりょくを放った。

闇のドームが形成され、セリオンはその中に呑み込まれる。

闇の魔力が濃密にあふれていた。

しかし、闇のドームは突然一刀両断にされた。

セリオンが光輝刃で斬り裂いたのだ。

「ククク……よくあがくものよ。なら、こちらは数で攻めるとしよう」

クローマティは闇黒弾をいくつも形成した。

それらはセリオンめがけて一斉に飛んでいった。

それらはすべてセリオンの光の斬撃によって防がれた。

セリオンのきらめく斬撃が闇黒弾を斬り払う。

クローマティはは闇のいばらを影から出した。

闇のいばらがセリオンを打ちつける。

セリオンはいばらによる攻撃をたやすくかわした。

「ならば! これをくらうがいい!」

クローマティは闇のバラを出現させた。

黒いバラが吸血しようとする。

セリオンは光波刃を飛ばして闇のバラを斬った。

クローマティの邪法陣。

闇のエネルギーが足元から噴出する。

紫色の闇がセリオンを覆いつくすかに見えた。

しかし、セリオンは邪法陣の弱点を見抜いていた。

中心に魔力が集まっている。

そこに光の大剣を打ち込み、セリオンは邪法陣を撃退した。

セリオンはクローマティの一瞬の隙をついた。

セリオンは光の大剣を振るい、クローマティを斬り捨てた。

「ぎいやああああああ!? いやっ!? いやああああ!? 死にたくない! 死にたく……!?」

クローマティはどす黒い闇を噴き上げて消えていった。

セリオンはユリエッテの部屋で目を覚ました。

どうやらユリエッテも同時に目を覚ましたらしい。

「セリオンさん、ありがとう。セリオンさんが私の中に来て私を助けてくれたんだね」

ユリエッテは額に置かれたセリオンの手をほおにのせた。

セリオンの手に、ユリエッテの涙が流れた。

「俺はできる限りのことをしただけだ。顔色が良くなったな」

「それになんだろう……体が軽いような気がする。今ならたぶん……えい!」

ユリエッテはなんと一人で立ち上がった。

「立てた……一人で立てたよ、セリオンさん!」

「なら、もう少し、前に出てみよう。歩けるか?」

「うん、やってみるね!」

ユリエッテはおそるおそる前に進んだ。

すると彼女は歩くことができた。

「歩けた……歩けたよ、セリオンさん!」

「ああ、そうだな。よくできた」

「いったい、これはどうしたっていうの……まあ!」

フィオラは言葉を失った。

それは彼女がユリエッテが立ち、そして歩いているのを見たからだ。

フィオラは涙を流していた。

「これはどういうことでしょう! 寝たきりだったユリエッテが歩けるなんて!」

「お母さん!」

「ユリエッテ!」

二人は抱き合った。

そして涙を流した。

セリオンはそれを感慨深く見ていた。

「ありがとうございます、セリオンさん。まさか本当に娘の病が治るなんて……あなたを少しでも疑ったことをお許しください!」

「気にしなくていい。それよりも、ユリエッテは急に元気になったんだ。食欲がわいてきたんじゃないか?」

「そういえば、そんな気がする……」

「なら、ベルギカ一の料理屋に行こう。これは俺のおごりだ」

セリオンは三人で料理屋に向かった。

ユリエッテは今までの食欲がウソのようにたくさん食べた。

そして、セリオンとベルジュは立ち去る日を迎えた。

フィオラとユリエッテが見送りに来た。

「本当に、感謝してもしきれません。セリオンさん、あなたがこの村に来てくれなかったらどうなっていたか……」

「すべては神が俺たちを出会わせてくれたからだと思います」

「そうですね。心から、神に感謝しましょう」

セリオンはユリエッテの頭の上に手を置いた。

「さあ、俺たちは行くべくところがある。ここでお別れだ」

「セリオンさん、ありがとう! 私、もっと元気になったら、お花をたくさん植えたいな!」

「ああ、きっとできるようになるさ! さようなら!」

セリオンは二人が涙を流していたことに気づいていた。

しかし、自分はどこかできっぱりと別離を告げねばならない。

セリオンは嬉しかった。

一人の少女を救うことができた。

「それじゃあ、俺たちは発ちます。どうかお元気で」

そう言うとセリオンたちはベルギカを後にした。

「それじゃあ、ブールジュ山に行きますかね」

「ああ、そうだな」

「お宝が他人の手に渡っていなければ、いいんだが……」

「そんなにたやすく他人のものになるほどのお宝なのか?」

セリオンが皮肉を口にする。

「そんなわけあるか! よし、さっさと行くぞ!」

セリオンとベルジュは再び歩き出した。

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