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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
それぞれの道からゴールを目指す

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 自由時間を楽しく過ごしたエルフリートは、女性騎士団のマナー講習で四苦八苦する少女たちを眺めていた。


「そこ、右側に重心が傾いているわ」


 マロリーはとても手厳しい。エルフリートはそう思った。事実、しごかれている側の表情にも不満が滲み始めている。マロリーだって、それに気がつかないわけがない。


「あなたたち……綺麗な姿勢を保つだけの時間が、無駄だと思っているわね?」


 案の定、マロリーがそれを指摘した。


「姿勢を維持する事は、肉体を鍛える事に繋がるわ。左右で均等な筋肉をつける助けになるし、何よりもこれは自分の体を制御する練習でもあるの」


 マロリーの人に理解してもらおう、興味をもってもらおう、という教え方はすごく勉強になる。

 何の為にもならないと思いながらの訓練より、何に活かせるか分かっている訓練の方が、気分的にも優しい事を知っている彼女だからこそできる話だった。


「いざという時、自分の肉体を制御できる能力は高ければ高いほど良い。そして、一見退屈そうなこういう訓練を耐えると精神力も鍛えられるわ。辛抱強く、粘らなければならない場面は今後いくらでも出てくる。

 その時に結果を出すのは、こういう訓練の積み重ねよ」


 マロリーの話を聞いている内に、だらりとしていたエイミーの背が伸びる。疲れ切った顔を隠しもせずにいたアイリーンはきゅっと唇を結び、視線を正面に戻した。シャーロットの背中にも力が戻る。

 ドロテやリリーも含め、全員が何かしらの疲れを見せていたが、それを己の中に潜ませた。


「一見、何でもないように感じる事でも、少し視点を変えるだけで、何もかもが訓練になる。そういう思考をすれば、もっと成長できるわ」

「……すみませんでした」


 エイミーが綺麗に頭を下げる。今までのマロリーの指導が形になって現れた瞬間だった。


「視点を変える事はとても重要よ。あなたたちは、これから私たち一期のメンバーと一緒に、女性騎士団を引っ張る人間になるのだから。分かったわね?」


 マロリーが全員を見回せば、それに合わせるように各々が頷いていく。


「すべての仕事が、戦いだと思いなさい。得手不得手はあると思うわ。年下の私にこういう事を言われるのが嫌だと思う気持ちも、少しはあるかもしれない。

 でも、我々は女性騎士団の一員なの。一人のミスで、全員が批判される事もある。それくらいで済めば良いけれど、戦争時にそれをしたら全滅よ。何事も、真剣に取り組む事」


 マロリーは、すごく良い上司になりそう。

 エルフリートは頭ごなしに怒るのではなく、理由を添えて指導員のように淡々と話す彼女を見つめた。マロリーは一人一人と対話しているように見えるくらい、彼女たちの目を見つめている。

 そしてその視線には怒りという感情は露ほども感じられない。


 個人的感情のない指摘というものは、強いエネルギーを感じないから受け止めやすい。しかし、その淡々さゆえに不安になる事もある。

 後で、そのあたりをエルフリートがフォローすれば良いのだ。


「これから入ってくる後輩は、騎士学校上がりよ。負けないように今の内に頑張っておきましょ」

「はい!」


 マロリーが小さく笑みを浮かべ、一言加えた。全員の雰囲気が明るいものに変わる。

 あ、これ、私のフォローもいらないじゃん……?


 飴と鞭の飴になろうと思っていたけど、必要なさそうだね。自分の活躍の場が一つ減ったような気持ちになり、エルフリートは何とも言えない気持ちになった。

 いや、喜ばしい事なんだけど。寂しいっていうか。最近、こういう気持ちになりやすいなぁ。複雑な乙女心って、こういうのを言うのかも。


「私はあなたたちに、後輩に尊敬される先輩や上司になってほしいわ。その前に、国民から憧れの職業と言われるように、そう見えるように、頑張ってほしいのだけど。当然、できるわよね?

 この前の戦場に比べたら、恐くはないはずよ」


 表情を和らげ、相手に未来を見せる。アイリーンはそんなマロリーに尊敬の眼差しを向けている。本当に、エルフリートがいなくても大丈夫そうだ。

 あーあ、本当に私、いなくても平気そうだなぁ……。

 マロリーの指導で瞬く間に統率されていく部下たちの姿に、エルフリートの胸にすうっと肌寒い風が通っていった。


 自分の手が届かない状態になっても成立するようにしたいと思っているのに、いざ、そうなっても大丈夫だと分かると寂しくなるなんて。エルフリートは、己の自分勝手な部分に苦笑する。

 自分らしくもない。マイペースで、ふんわりしているのが売りなのだ。ここ最近、 今日のように変に落ち込むような気分になる事が増えてきた。

 それは、自分が今後について不安に感じたり、今の自分を不満に思ったりする事が多いから。でも、自分の未熟さに気がつくようになったのは、きっとこれから成長するって事だよね!

 エルフリートは、そう自分に言い聞かせるのだった。

2024.10.3 一部加筆修正

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