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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
それぞれの道からゴールを目指す

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10

 仕方なく、だろうか。グレッドソンがエルフリートの後を追う。


「ねえ、今のどうやったの? 二段階に制御したんだよね? やっぱり筋肉?」


 エルフリートは矢継ぎ早にブライスへ質問を投げる。エルフリートの異常行動に慣れている彼ではあるが、さすがに目を白黒とさせた。


「どんな風に鍛えたらそんな格好いい筋肉に育つの?」

「おい……フリーデ、脱線してる」

「アイマルも、その剣の角度、どうやって見極めたの? やっぱり経験? それとも計算したの?」


 ブライスの返事も待たずにアイマルへも質問を投げつける。状況の全く分からないアイマルは目を見開いて固まっている。エルフリートは興奮がおさまらず、今にも彼にのしかかりそうな勢いだった。


「とても繊細な受け方だったと思う! それって――」

「フリーデ」


 さすがに危険だと判断したらしいブライスの手で、エルフリートは動きを封じられた。私は全然危険じゃないのに!


「まずは俺が答えてやるから。な?」


 ブライスに羽交い締めされてしまったら、エルフリートにはほとんど為すすべはない。それに、これは絶対にエルフリートが悪い。

 下手に反抗してブライスに迷惑をかけるのはエルフリートも本意ではない。


「うぅー……」


 エルフリートは不服そうな声を出しつつも、ひとまず体の力を抜いた。


「俺の速度制御だが、これは調整できるようになっている」

「ええっ!?」

「はは、驚きすぎだ」


 ブライスはエルフリートの声に笑う。しかし驚くのも仕方がない。制御不能そうな話を何度も聞いていたからである。制御できる代物なら、怪我をさせずに済んだはずだ。それは、エルフリートの思い込みだったのだが。


「制御できなかったら、お前を助けたときだって、あんなにちょうど良い位置で止まれる訳ないだろう。お前たちが勝手に勘違いしているだけだ」

「それ、高機能すぎない?」


 エルフリートはおそるおそる、彼を見上げた。逆さまに精悍な男の顔が見える。


「そりゃなぁ……陛下からの褒賞だから」

「ええっ!?」

「フリーデは知らなくて当然だ。かなり昔の話だからなぁ」

「グレッドソン」


 ブライスがそれ以上の話はおしまいだと言わんばかりに名前を呼んだが、彼は止まらなかった。


「こいつ、偶然にもお忍びデートをしていた陛下夫妻と遭遇して、結果的に暴漢から守り抜いたんだ」

「わぁ、格好いい!」

「面白い事に、ブライスの奴、助けた後に陛下だって気がついたんだ」

「すごく格好いい!」


 エルフリートは思わずぱちぱちと拍手をした。

 相手の貴賤なく困った人間を助ける。それは騎士として正しい行いだ。


「国王の顔をまともに覚えていない騎士だなんて、恥でしかないだろ」


 ブライスはエルフリートの頭に顎を乗せ、重しをかけてくる。それが彼の照れ隠しだと分かっているエルフリートは小さく笑う。ブライスみたいな正しい騎士になる。それはエルフリートが密やかに決めた目標である。


「おい、笑うな」

「ブライスは本当に騎士として格好いいよ」


 彼のような屈強な男はエルフリートの方向とは一致しない。だが、ブライスは誰よりもエルフリートの理想の騎士に近い。その本質は筋肉でも、統率力でもない。騎士としての心得を実行できるかどうか、である。

 ブライスは、騎士として、常に最善の行動をしているように見える。決して個人の感情で考えが左右されない。少なくともエルフリートには、そんな風に見えていた。


「……そうかい」


 エルフリートが決して茶化しているのではないと気がついたのだろう。ブライスはぶっきらぼうに、しかも小さな声で「素直に褒められておくぜ」とエルフリートに言った。


「ところで二人とも、その距離感は男女として正常か?」

「うん?」

「あ?」


 アイマルが怪訝そうにこちらを見ている。エルフリートは今の状態を、客観的に見直す事にした。エルフリートの頭の上にはブライスの顎が乗っている。最初羽交い締めにしていたブライスの腕は、エルフリートが暴れなくなったからか、エルフリートの腹部で組まれている。

 この体勢は、どう考えてもいちゃついているカップルそのものである。そう思うに至ったエルフリートはびっくりして姿勢を正した。


「いっ!」

「ったぁいー」


 少しの隙間だけでもあれば、それなりに衝突する。エルフリートの頭がブライスの顎にぶつかった。頭上でがちんと音がしたから、きっとブライスは口を開けていたのだろう。

 いい音がしたから、恐らく舌は噛んでいないだろうが……。


「くそ……おとなしくしとけよな……」

「ごめんなさぁい……」


 ブライスに悪態をつかれ、エルフリートは心の底から謝った。私も痛いけど、多分ブライスの方が痛かったはず。うう、こんなはずでは……。

 エルフリートは、自分とブライスが唸り声をあげる姿を見て、アイマルが小さく笑っているのを見逃さなかった。うん。もうアイマルの方は安心かな。

2024.10.2 一部加筆修正

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