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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
それぞれの道からゴールを目指す

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7

 不安まみれだったアルブレヒトとの顔合わせは、意外にもスムーズに進んでいった。むしろ、アルブレヒトとエルフリートが会話に花を咲かせるシーンまであった。掴みは上々、といったところである。

 ロスヴィータは思いの外順調な事に、少しだけ油断していた。


「……え? 入学希望者が少ないんですか?」


 ケリーは少しばかりばつが悪そうにしている。ロスヴィータはすぐにピンときた。これは、入学希望者が少ないのではなく、入学させられる人間が少ないのだ。

 どんな人間でも入学できるという風にしたかったが、はじめの内はある程度身元のしっかりしている人間にしようという話になった。グリュップ王国ですら、各地に間者を忍ばせている。情報を得ようともぐり込みを仕掛けてくる人間がいても不思議ではない。

 特に、設立直後は大切な時期となる。可能な限り、騎士学校の計画を乱す原因になりそうな要素は減らしておきたいところであった。そういうわけで、ロスヴィータも仕方がないと納得した話である。


「そんなに身元チェックが厳しいのですか?」

「いや、そんなに厳しいって事はないけれど……孤児院系列からの希望者が多くてね。残念ながらそちらはすべて断ったんだ」


 孤児が生計を立てる為に考える職業として騎士は、一番まともで実入りが良いだろう。王妃の慰問について行った時の事を思い出す。


「孤児院とはいえ、身元の分かる子供もいるのでは?」


 王妃が訪問するくらいだから、あそこの孤児は問題がないと分かっているのではないだろうか。そういう思いから口にした言葉であったが、ケリーの話を聞くにつれ、現実的ではなかったのだと知る。


「まあ、それはそうだけれどね。孤児の追跡は難しいから、身辺調査に削く人員が必要になる。今は戦争を仕掛けてこようとする動きがあるかを探る事の方が重要だ。

 国を守る為に未来の騎士を育てたいのに、その前に攻め滅ぼされては本末転倒だから」

「……それは、そうですね」


 騎士学校の運営が最優先ではない。ロスヴィータは国の運営という視点における優先順位を考えずに、ただ騎士学校の事だけを考えていた自分を恥じた。


「本当は全部同じくらい重要だから、優先させたいところではある。けれど、人材が足りていない以上、そこはどれかを削るしかない」


 ケリーがはぁーっとひときわ長い息を吐いた。珍しい事である。だが、それが一層彼の心情を示しているようにロスヴィータの目には映った。


「という事で、調査が大変な孤児を全員はじいたら、ごく少数になった。あと、孤児も含めて申込者全員、テストと面談を受けさせている。孤児の方は主に学力の問題で落ちたと思わせる事で不満を潰した。

 代わりに、学力を上げる為に教師を孤児院へ定期的に派遣する算段を取り付けたから、まあ、大きな問題にはならないだろう」


 そんな事までしていたのか。ロスヴィータは素直に感心した。正直に「身辺調査が面倒だから一律で落としました」と言えば良いという話ではないのだ。それでは差別になってしまう。

 やる気になれば騎士を目指せる場が「孤児は駄目」という一言で台無しになってしまうところを、騎士の勉強をするのにはまだ学力が不十分だと思わせる事によって回避させたのだ。


 事実、最低限の学力は必要だと思う。どのくらいの難易度ではじいたのかは分からないが、ケリーの事である。孤児院での教育状況を調べ上げた上で問題を作ったのだろう。


「決して生まれや育ちで差別したのではない事を、孤児院への補助というわかりやすい形で説明したのですね」

「そういう事」


 ケリーはぬるくなってきた紅茶で喉を潤すと、ロスヴィータに顔を寄せた。重大な秘密でも教えてくれそうな気配に、ロスヴィータも同じく顔を寄せる。


「君も、こういう立ち回りを考えられるようにならないと駄目だからね。まっすぐなのは良いけれど、相手はそれを歪ませて解釈する事がある。

 人間は根っからの悪人と思え、とまでは言わないけれど、そういうシチュエーションまで考えて動けるようになってほしい」

「はい」

「これ、戦略はもちろん、他者との駆け引きなどにも使えるから、そういう思考をできるようになって損はないから」


 ケリーの思考をまねできるようになったら、とんでもない策士になれそうだ。ロスヴィータは己の能力の秘密を、惜しげもなく教えてくれるケリーを改めて尊敬のまなざしで見つめる。


「そんな熱心に見つめられても、何も出ないよ」

「……何か出されても困りますが」

「えぇ? そうだな……それではこれを渡しておこうか」


 ロスヴィータが困惑するのを承知で渡してきたのか、とあきれた気持ちで受け取ろうとし――固まった。彼が差し出してきたのは、騎士団副総長印の押された封筒だったのだ。


「困った時に、使うと良いよ。僕が保証するからロスヴィータ嬢のわがままを聞いてくれって認めた書を入れておいた。君の権限でどうにもならない事が起きた時に、とっても役に立つと思う」


 驚きのあまりに固まってしまったロスヴィータを見て、ケリーはいたずらが成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべた。

2024.9.29 一部加筆修正

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