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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
それぞれの道からゴールを目指す

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6

「――ところで」

「はい?」


 ゆっくりと話をしたい気持ちはあるが、長居をしては迷惑になる。そう思って立ち上がろうとしたロスヴィータに、アルブレヒトが声をかけた。騎士学校の件は一段落したと思ったのだが、とロスヴィータは首を傾げる。


「ぜび、相棒と婚約者を紹介してもらいたいものだ」

「フリーデと、フェーデですか?」

「そうだ。あの兄妹と話がしてみたい」


 正しい姿で紹介すべきか、活動中の方で紹介すべきか、ロスヴィータの頭の中にきゃっきゃと戯れる二人の姿が浮かぶ。

 女装男装が見破られるのが先か、それとも人の成り代わりが見破られるのが先か。

 正しい姿で会おうが会うまいが、いずれかのリスクが転がっている事に変わりない。

 しかしロスヴィータには、どちらが良いのか選べなかった。


「……二人が良ければ」

「そうか。では、良い返事が返ってくる事を祈ろう」


 ああ、既にアルブレヒトの中では彼らと会う事が決まっているのか。ロスヴィータは何事も起きずに面談が終われば良いが、と不安を感じるのだった。




 ケリーにアルブレヒトが教師側についてくれるという話を伝えれば、彼は今にも踊り出してしまうのではないかというほどのテンションで喜んだ。


「すばらしい! これは君の人徳がなせる技だ。本当にすばらしい!」

「たまたま私が彼の親戚で弟子だったからに過ぎません。運ですよ、運」

「確かにそのあたりは人徳ではないが、嫌な弟子だったら途中で破門にされていただろうし、そうでなかったとしても、すんなりと弟子の要望を承諾するわけがない。

 つまり、君の人柄がアルブレヒト様から見て合格ラインにあったという事。人徳だ」


 長々と全力で褒められると、ロスヴィータも悪い気はしない。少し照れくささを感じつつ、礼の言葉を口にする。


「人柄に優れているのは良い事だ。そういう人間が上に立っていると、下の人間は幸せになれる」


 しみじみと言うケリーは、実体験であるかのような口調だ。彼ほど優秀な人間であっても、上役次第で苦労した事があるのかもしれない。ロスヴィータは、自分の相談役がケリーのような人間である事に、感謝するべきだろうか。


「少なくとも、今の私はヘンドの補佐役になれて幸せいっぱいさ。無茶は言わない、現実的な思考をしている、そして良い奴だ」

「そうですか。私はまだ総長と直接やりとりをするような仕事をしていないので、分かりかねますが、あなたと仕事をしている範囲で言うならば、あなたもとても良い人です。一緒に仕事ができて幸せだと思っています」

「はは、私の事を変な男だと思っているくせに」


 ケリーのコメントに苦しむ言葉に、ロスヴィータは曖昧に笑う。


「ほら、私が相手の時くらいにしかその顔をしない。そんな反応をさせてしまっている自覚はあるから、君の不手際ではないという事はちゃんと言っておこう」

「んぷ」


 人差し指で頬をぐりぐりとされ、変な声が漏れる。ロスヴィータはとうとう眉間に皺を寄せた。


「良いね。私はそういう表情をする人間は嫌いじゃないよ。意地悪な事を言ってしまったけれど、君が本気で私との仕事を良いと思ってくれている事は分かっているし」

「はら、わあってくあはい」


 ロスヴィータが嫌そうに反応するのを笑いながら彼は続ける。


「いつもかっこいい王子様な君も好きだけどね。そういういろんな表情をしている君の姿をもっと部下に見せてあげなさい」

「はひ?」

「隙のない姿は憧れを抱かせるが、同時に近寄りがたさを感じさせる」


 ケリーはじゃれあうついでに、ロスヴィータへ大切な事をレクチャーしようとしてくれていた。


「一種の親しみやすさ、というものは、隙から生まれるのだよ。偽りでも良い。隙を見せるようにしてみれば、より部下が協力的になってくれるよって事」


 人心掌握の為のテクニックという事か。ロスヴィータの表情の変化を感じたのだろう。ケリーは苦笑する。


「わざとって言っても、やりすぎればただのダメな上司だからね。匙加減はくれぐれも気をつける事」


 それはそうだ。ロスヴィータはそろそろ赤くなってきていそうな頬を諦め、小さく頷いた。我慢できる程度だが、痛かった。




 騎士学校の話が順調に進んだロスヴィータは早速、アルブレヒトの件をエルフリートに伝えに行った。


「え? 良いよ。この格好は多分気がつかれないけど、観察眼で入れ替わりはばれてしまいそうな気がするから、この姿で会おうかな」


 あっさりとした返事に、ロスヴィータはぽかんと口を開けた。


「ロスの師匠、強いんだろうなぁー。ふふ、楽しみぃ」


 彼の周囲に花畑が見えるようだ。


「まさか、アルブレヒト様の事を知らないんじゃ……」

「さすがに私だって、アルブレヒト様の事は知ってるよ!」


 疑ってしまったのは悪いいと思うが、あまりにも脳天気な返事だったものだから、疑ってしまった。怒っているのだと主張するかのように頬を膨らませ、ぷりぷりとエルフリートは言った。

 だが、その表情は次の瞬間には正反対のものに変わる。


「アルブレヒト様、ちょっと渋くてかっこいいじゃない? 私の好みは爽やかかっこいい王子様系だけど、時にはああいう渋い大人の男も憧れちゃうの」

「……」


 ロスヴィータの思っている“知っている”とかけ離れた言動に、思わず半眼してしまうのだった。

2024.9.28 一部加筆修正

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