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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
それぞれの道からゴールを目指す

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4

 騎士学校の話は、意外な事にものすごい早さで話が進んでいった。というのも、王陛下が表立って行うという事と、騎士団総長含む騎士団側が乗り気だったからである。

 あまりにも周囲が率先して動く為、ロスヴィータは自分がほとんど動いていないような気分になってしまったほどだ。


「こっち、承認下りたから。あとは教師陣をもう少し増強したい。ロスの方にアテはあるか?」


 暫定的に校舎をアルフレッドが所有していた屋敷にするという作戦は順調に進んでいる。ロスヴィータは屋敷の使用許可証明となる書類をケリーから受け取りながら、小さく唸る。


「あて……私の師――アルブレヒト様に声をかけていないのならば、私が試してみます。あとは、もしカッタヒルダのあたりが落ち着いているならば、彼らを呼び戻すのはどうでしょうか?」


 ロスヴィータの師は第二騎士団長を経て将軍をしていた人間である。彼もまた、王位継承権を持っていた。王位継承権の年齢制限に引っかかり、今は元王位継承権者という肩書きになっている。

 騎士としての考えから仕組み、戦闘訓練、戦略の練り方など、すべてを網羅して教える事のできる人材には違いない。こだわりの強さが少々気むずかしく感じさせるだろうが、ロスヴィータが動かせる可能性のある人物では一番まともで、実力があった。


「陛下がお声掛けしていないのであれば、どちらもおそらくまだのはずだ。私の方からは恐れ多くて声をかける事が難しくてね」

「なるほど……そういうものですか。では、アルブレヒト様にはさっそく打診してみます。ヘンドリック様とガードナー様も私から声をかけてみた方が良いでしょうか?」

「いや、そっちは名前の似ている現総長にやってもらおう」


 ケリーが生き生きとした表情で言う。確かにヘンドリクスとヘンドリック、名前が似ている。


「名前が似ているから、やらせるんですか?」

「だって親子だからね」

「なっ!」


 ロスヴィータは絶句した。そういう事はもっと早く教えてほしい。慌ただしくて、カッタヒルダで出会ったあの方々について調べる余裕はなかったが、さすがにこれは知らないとまずい情報だったのではないだろうか。

 ロスヴィータの驚きようがよほど面白かったのか、ケリーは取り繕う様子もなく爆笑した。


「そりゃ、ヘンドは母親似だし、総長は世襲制じゃないっていうか一個飛ばしで就任してるし、ヒントは名前くらいしかないから、そういう事もあるだろうけど! はは、ヘンドもヘンドリック殿もかわいそうになぁ」


 そんなに面白いものだろうか。ひぃひぃと苦しそうに悶えながら笑い続ける男に、ロスヴィータは目を丸くしたまま固まった。


「まあ、二人とも総長になったのは必然というか、実力だからな。あと、ヘンドは長男だが末っ子なんだ。だから少しヘンドリック殿とも年齢が離れている。

 それにしても、少しくらい似ているとか何か思わなかったのかい?」


 名前は似ていると思ったが、特に二人が似ているとは思わなかった。ヘンドリクスは寡黙だが包容力のある人間だと思っているが、ヘンドリックは気さくな壮年男性といった風だった。

 そもそも、エルフリートは会話をしたようだが、ロスヴィータの方は少し挨拶をした程度だったし、そんな短い時間で人柄などが分かるはずもない。


「ほとんど話をしなかったから、分かりませんって……」

「鼻と口元はそっくりだよ。きゅっと笑む時の口の形とかうり二つだ。ロス、君は本当に面白いね……うん。実に良いよ」


 クノッソ領で共に戦った時には考えられなかった姿を見ている。人間誰もがこんな感じだったら、絶対に嫌だ。そうなれば、ロスヴィータは一人の人間も読みとる事ができないだろう。


「ケリー、私はあなたの事すら分からないので、ほとんど接触のない二人を関連づける事は不可能です。それに、そこまでの余裕はありませんよ……」


 エルフリートならば気がついただろうか。いや、気づくまい。ロスヴィータは思い直す。きっと、長い間共にいなければ、貴族年間などを細かくチェックしていなければ、気づく者はいないだろう。


「まあ、二人の件は良いとして。ヘンドには連絡をとるよう頼んでおこう。実は、二人を招致する事にヘンドは協力的ではなくてね……」

「そうなんですか?」


 親子ともなれば、こういう時にこそ頼り頼られ、という話になりそうだが。ロスヴィータは首を傾げた。不仲であるとすれば、そもそもヘンドが連絡を取らなくても済む案をロスヴィータへと提示してきたはずだ。

 それをしてきていないという事は、不仲ではないのだろう。


「二人とも、自分の生きる場所を決めてしまうタイプだからなぁ」


 笑いを落ち着かせたケリーがしみじみと言う。


「つまり――」

「息子が何を言おうと無駄かもしれないって事」


 ヘンドリクスが声をかけたところで勝率が低いから嫌だ、という事か。ロスヴィータは意外にもヘンドリクスにも優柔不断な部分がある事に、少しだけ好感を抱いたのだった。

2024.9.26 一部加筆修正

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