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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
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 着席したロスヴィータは鏡越しにエルフリートと目を合わせる。彼は真剣なまなざしでロスヴィータを見つめていた。あまりにも熱の籠ったそれに、ロスヴィータは少しだけどきりとする。

 彼がそういう表情をすると、少年らしさがにじみ出て人間の枠を越えた存在のように見える。性別のない人間などいないのだが、そんな風に見えるのだ。


「ロス」

「……なんだ」

「ロスの化粧ね、ちょっとムラになっちゃってるから、もったいないけど落として良い?」

「構わないが」

「えっ、良いの?」


 快諾したら驚かれた。ロスヴィータが首を傾げれば、困惑したような顔をしている彼と目が合う。


「せっかくロスが自分でやった化粧なのに、良いの?」


 何だ、そういう事か。少し渋られるとでも思ったのだろう。確かにもったいないと思わなくもないが、必要があるのならば快諾するに決まっている。

 ロスヴィータは簡潔に理由を口にした。


「より良くさせる為には当然だろう。フリーデが直した方が良いと思うのならば、それに従うまでだ」

「そういう、もの?」


 理解できないという顔をする彼に、ロスヴィータは自分なりのおまけをつける。


「――だが、そうだな。できれば自分でできるようになりたいから、解説しながらやってくれるか」


 ただ、やってもらうだけではだめだ。それでは意味がない。ならば、という考えでロスヴィータは提案したのである。

 しかし、この発言を聞いたエルフリートはより一層変な顔になった。なぜだ。


「えっと、嫌じゃないの?」

「よりクオリティの高い化粧になるのに、嫌……とは?」

「自分がした化粧を否定されている気持ちになったりとか」


 エルフリートが何を言いたいのか分からない。否定された気持ちになる、というが、そもそもロスヴィータは否定されていない。


「うん? しないな。ところで、私は否定されたのか?」

「ううん。してないけど、そういう風に感じたりしないのかなって」


 やはりしていないんじゃないか。ロスヴィータも怪訝そうな顔になる。これは彼の考えが理解できないロスヴィータがいけないのだろうか。

 理解しても共感はせず。というのではなく、理解できていない。そこがだめなのだ。とはいえ、ロスヴィータが理解できるようにエルフリートも努力をするべきである。

 ロスヴィータだけが悪いとは言い切れない気がした。しかし仕事前にそんな事で時間を使っている場合ではない。


「私は、言われた事をその通りに受け取った。だから、フリーデの言っている事に不快なものは感じていない」

「ごめん。私、変な事言ったね。ロスが穿った見方をするような人間じゃないって分かってたのに。あー……もー、ほんと、ごめんねぇー」

「よく分からない事を謝られても……私は気にしていないぞ」


 今にでも自分の髪をグシャグシャにしてしまうのではないかと心配になりそうなほどに、彼は両手で頭を抱えていた。本当にわけが分からない。

 ゆっくりと説明を聞きたいと思ったロスヴィータだが、それは諦めるしかなさそうだ。本当に時間がない。


「フリーデ。とりあえず、時間がない。やってくれ。解説は今度だ」

「あっ、それもごめんっ!」


 エルフリートはそう言うなり、手早くロスヴィータの化粧を落とした。少し前に見たばかりの素顔が現れる。エルフリートは鏡台に並べてある化粧水やら乳液やらをどんどんロスヴィータの顔に塗っていく。

 ロスヴィータは三種類目くらいになった頃から、何をされているのか分からなくなっていた。少なくとも、ロスヴィータの顔は徐々に整っていっている。

 適度に粉がはたかれていて、眉はきりっと、目尻はつり目になりすぎない程度に線が引かれている。くらいまでは分かる。


 彫りの深さを調整する為に何かをされて、少しばかりメリハリ感が増した気がする。アイシャドウやらなにやらで具体的に「こう」とは説明しにくいが、ちゃんと変わってきている事だけは分かる。


「女性らしさを残して凛々しくしてみたんだけど、どうかな」

「正確には?」

「女性らしさを少し追加してみたよ」

「よく分からないが、変に気を回すのはやめないか? 状況が飲み込めていないんだが……今まで通りで良いぞ」


 この前からの悩みが続いていて、まだ混乱中なのかもしれない。


「うう」

「まあ、フリーデの発言はともかく、出来は完璧だと思う。さすがだ」

「……ありがとう」


 エルフリートはまだ駄目そうだが、ロスヴィータの顔は間違いなく完成していた。仕事の時間が迫っていた彼女は眉間にしわを寄せ、眉尻を下げて悔しそうにしているエルフリートの腕を引っ張った。


「ほら、行こう」

「うう、納得いかないよぉー」

「何でも良いだろう。私は今までのフリーデも、今のフリーデも、どちらも楽しくて好きだよ」

「あーん、私も大好きー!」

「はいはい」


 エルフリートの機嫌が戻ったところで部屋を出て、これからの仕事の簡単な打ち合わせをしつつ、集合場所まで急ぐのだった。

2024.9.23 一部加筆修正

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