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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
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9

 ロスヴィータは落ち込んだ様子を見せていたエルフリートの事が気になりつつも、自分のやるべき事をするべくケリーと打ち合わせをしていた。


「何か気になる事でもあるのかい?」

「あ、いえ。そんな事は」


 上の空でいたりはしていないが、聞かれてしまったという事は、態度に出てしまっていたという事だ。今やっている事よりも重要な話題はない。

 ロスヴィータはエルフリートの事を頭の中から追い出した。




 式典の順序など、覚える事はたくさんある。そしてケリーを通して事前にある程度の流れを国王と示し合わせておかなければならない。特に、今回は大きな話を提案する事になる。

 茶番のようでロスヴィータはあまり好きではないが、より演出効果の高い話の持っていき方にしたい為、台本を詰めていく必要があったのだ。

 しかも、この点に関して言うならば、秘密裏に口裏合わせを行うのだから、当然他言無用というものとなる。


「では、陛下のご提案を全て遠慮する案でいこうか。陛下も、その方が印象強くなるだろうとのお考えだったようだから、ちょうど良いね」


 暗号のような文字が書かれた紙に、これまた暗号のような文字が加えられていく。聞けば、暗号ではないと言うではないか。

 一生かかっても、ロスヴィータには読める気がしない。ケリーが陛下とロスヴィータのやりとりを取り持つ要員に抜擢されたのは、これが理由に違いなかった。


「陛下からは、適当に誰もが羨むような、ぎりぎり適正だと納得するようなラインの報償をお願いしておこう」

「お願いします」

「それにしても、大それた事を考えたものだ」


 ケリーはロスヴィータに向けていたずらっ子のように笑いかけた。


「でも、これからのグリュップ王国には必要な事でしょう?」

「もちろんだよ。だが、それを報償にしてしまい、確実に国主導のものにしてしまおうというんだ。国が主導となって動くには、大臣たちの承諾が必要だ。

 大臣たちの思惑から影響を受けない理想の状態で始められるようにするには、議会承認をすっ飛ばすしかない」


 ケリーは上機嫌に口笛を吹いた。今までのイメージを覆す態度に、ロスヴィータは目を見開く。

 人をからかうような言動は今までもあったが、それとは違って粗野さが目立つ行為だった。


「良いね。実に良いよ。俺はそういう利口な人間は大好きだ」


 彼は、テーブルに肘をついて顎を乗せた。ロスヴィータの目には、彼が魔王であるかのように映る。


 さっきから続いているいたずらっ子のような表情が、邪悪な魔王が悪巧みをしている時の顔にすら思えてくる。

 ロスヴィータは、ぎこちない笑みを浮かべた。


「私は、女性騎士団の事を考えただけです。ただ、女性騎士団だけと限定してしまっては、周囲の反感を買いましょう。

 だから、そちらの利益に関しては()()()です」

「はは、ついでか。そうだろうな。ますます良い」

「は……?」


 いよいよおかしくなったのだろうか。

 ロスヴィータは大笑いする目の前の男に、なんと声をかければ良いのか分からなかった。

 ロスヴィータは基本的に自分が周囲を動揺させる事はあっても、こういうような形で動揺させられた事がほとんどない。

 それが、二人きりの空間で起きている。助けを求める事はできないし、逃げる事もできない。


「ああ、君はなぜ俺がこんなに笑っているのか分かっていないな? 簡単な事だ。ロス、君は周囲の目があるから面倒だけど我々を巻き込んだ(立てた)って言ったのだよ。とても素直でよろしい」

「あっ」


 ケリーの指摘にロスヴィータは間抜けな声を上げた。ロスヴィータは副総長である彼に対し、ぞんざいな態度を取ってしまったのだ。女性騎士団は総長と副総長の直下にある既存の騎士団と並列した立場にあるが、組織図で並列に扱われているだけで、運営され始めてから間もない赤子のような存在だ。

 なのに、女性騎士団だけが体を張ったかのように見えかねない今回の式典だ。その式典でのイベントを仕込んでいる最中に、元々あった組織を軽く見ているような発言は……常識的に考えればあり得ない事だ。


 やってしまった。ロスヴィータは自分の視界の小ささを恨んだ。女性騎士団の設立までうまく立ち回れていたというのに。


「あまりそう落ち込むな。俺は気にしていない。むしろ好感を抱いている」

「……どうしてですか」


 ケリーが怒る要素はあれど、喜ぶ要素など存在しているとはロスヴィータには思えない。不満げな声になってしまったその質問を、ケリーは鼻で笑った。


「簡単な事だ。女性騎士団を率いていくのなら、もう片方の騎士団を押しのけるくらいの強さがないと困る。今の女性騎士団には、女性騎士団の事だけを真剣に考える強い指導者が必要なのだよ」

「……相手に失礼を働いても良いと?」

「うーん、失礼を働く相手によるなぁ。あとは犯罪行為でなければ、良いのではないか?」


 ロスヴィータは納得がいかなかった。貴族社会の一員であるから、礼儀がどれほど重要なのかロスヴィータは知っている。

 貴族の中でも高位であるロスヴィータは、実際に無礼を働いて処罰されるという事はなかったが。


「少なくとも、俺とヘンドは気にしないよ」


 彼はわざと総長を愛称で呼び、にっこりと笑った。

2023.9.21 一部加筆修正

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