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ブライスは、エルフリートに向けて簡潔にまとめる。
「俺たちには、それぞれ向き不向きっってやつがある。俺は頼りがいのある男にはなれるだろうが、どう頑張ったって美しい男にはなれない。
これは外見だけじゃない。内面だって同じだ」
エルフリートは頷いた。
「今の自分にある、良いところを伸ばしてやれ。そこに近いものを伸ばしていけば良い。遠いものを伸ばそうとしたって、なかなか身につかないもんだ。
あと、自分しか持っていない強みが何なのか。しっかりと振り返って考えてみるが良い」
ブライスの言葉をしっかりと胸に抱く。
「頑張ってみるね」
「おう。ま、俺も時々気にしておいてやるよ」
「ありがとう」
エルフリートの自然な笑みに、ブライスは笑い返してくれた。
ブライスの話を思い返しながら、エルフリートは自分の得意不得意について考えていた。ブライスが褒めてくれた通り、魔法は得意だ。人とのコミュニケーションも負担ではない。
確かにロスヴィータの言葉は間違いではなかったのだろう。あとは、どうやって伸ばしていくか。そう言えば、ブライスは他にもいろいろと提案してくれていたのだった。
能力があるのだから、それを活かせるようになれば良い、と。必要な場面で発揮するというのは後手に回った活用方法である。その考えを捨て、能力を発揮する事を前提として行動に組み込むのだ。
エルフリートはその話を聞いた時、戦略と同じだという感想を抱いてしまった。能力を使いきる事のできるプランを練る。それは戦いにおいて重要な事だ。
この前のカッタヒルダ山とカリガート領での戦いは、まさにそれであった。自分に何ができるのか。それを正確に把握しているからこそできた作戦である。
同じ事をするとしたら、自分の能力について、しっかりと見つめ直す必要がある。
「女装は……バラすわけにいかないしなぁ」
真っ先に思いついた能力を、エルフリートはすぐになかった事にした。
「魔法とか、そういうのは出てくるけど、私ってどんな感じなんだろう」
「フリーデ」
「ロスやバティたちとは違うのは分かってる……具体的にって、思うと……」
「フリーデ」
エルフリートはぶつぶつと呟きながら、寮の入り口を通り過ぎる。
「ほんわかマイペース、ムードメーカーかな……」
「凍てつく刃よ――」
「わぁっ!?」
急に感じた殺気にエルフリートは悲鳴を上げた。
「な、なにっ??」
びっくりして振り返りつつ、結界を張る。振り返った先には、詠唱を中断し、呆れ顔でこちらを見つめるマロリーの姿があった。
「……あなた、完全に不審者だけど。何をぶつぶつ言っているの?」
「マリン!」
マロリーには、いつも変な姿ばかりを見せている気がする。エルフリートは指先で頬をかき、へたくそな笑みを浮かべた。
「勤務明けで帰宅しようという時に、怪しい人物を見かけるなんて、ツいてないわ」
「ごめんね。ちょっと悩んでたの」
エルフリートがしおらしく言うと、マロリーは片眉を上げておやっという顔をした。普段悩みとは無縁そうな人物像のエルフリートである。そんな顔をされても仕方がないと納得するしかない。
「後で部屋に行くわ。私の為に、お茶でも用意して待ってて」
どうやら、マロリーはエルフリートの相談を受けるつもりらしい。意外な展開に動揺しつつ、エルフリートは彼女の訪問を待つのだった。
エルフリートが茶菓子と飲み物の準備をしていると、着替えだけを済ませてきたらしい彼女が現れた。
「邪魔するわ」
「どうぞ」
機能性重視の動きやすいワンピースを身につけたマロリーは、慣れた様子で席に着く。エルフリートは準備していた紅茶を淹れ始め、その間に菓子を勧めた。
「ありがとう。夕食抜きだから助かるわ」
「えっ、お菓子じゃ駄目だよ」
「良いの。普段なら、食べずに寝てしまうし」
マロリーの食生活は意外と乱れているようだ。
エルフリートは少し悩んだ末、リンゴなどのフルーツをふんだんに使ったタルトを取り出した。果物が入っているだけ、こちらの方が健康的だろう。
少なくとも、小麦粉と砂糖が主原料の焼き菓子よりは良いに違いない。
「お菓子も食べて良いけど、こっちも食べて」
「あら、おいしそう」
マロリーはタルトを見るなり目を輝かせた。リンゴにブルーベリー、ラズベリー、モモ、果物をこれでもかと乗せたそのタルトは、果物の宝石箱みたいだ。
食べる前から楽しい見た目のそれは、マロリーの目に適ったというわけだ。
「食べながらで悪いけど、何を悩んでいるの?」
早速核心を突いてきた。効率よく何でも進めてしまう彼女らしい。普段のペースを崩さず、相手を緊張させないように配慮してくれているのかもしれない。
何だかんだ優しいんだよねえ、と思いながらエルフリートは悩んでいる事を話し始めた。
「――悩むほどかしらね」
「え?」
エルフリートの話を聞いたマロリーが出した答えは意外なものだった。
2024.9.18 一部加筆修正
2025.11.1 誤字修正




