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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
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2

 式典が近づくと、運営側であり参加者側でもある女性騎士団はにわかに慌ただしくなった。エルフリートとロスヴィータは式典に参加する為、その他の女性騎士団員が全員警護に回る事となったからだ。

 今回は戦勝記念の式典となる。国王夫妻はもちろん、近親の王族総出となる事が決まっていた。


「なるべく相性の良い組み合わせにしたいな」


 そう思案げに呟いたのはバルティルデである。エルフリートは首をこてんと傾け、不思議そうな表情で彼女を見つめる。


「王族のみなさん、とても気さくで良い方ばかりだよ?」

「ああ。少々気さくすぎるが、性悪な人はいないぞ」


 エルフリートだけではなくロスヴィータも同じ意見らしい。一番彼女たちと接点のあるロスヴィータが言うのだから、きっと間違いないだろう。


「でもな、マナーが未熟な子もいるから、少しでもそういうのに気づかなそうな人にあてたいだろ?」


 バルティルデは無礼を働いてしまうリスクを気にしているようだ。そうなってしまうと、エルフリートにはアドバイスのしようがない。むしろ、マナーを教えてしまった方が楽だと思ってしまう。


「バティ、そこが心配なら、むしろマナーに詳しい王族付きにした方が良い。マナーが未熟な人間同士がまとまると悪目立ちするし、何より王族が部下の不作法を放置するという事実がまずい」

「……なるほど。そういう見方もあるか」


 側付きや護衛の質で、権威も左右されちゃうんだ。

 普段からあまりそういう事を気にする事のない世界で育ったエルフリートには、いまいち理解できない世界だった。

 マナーは完璧な方が良い、くらいの感覚だったエルフリートはひっそりと反省する。


「今回は表向きには国内向けの式典だし、そこまで神経質にならなくても良いとは思うが。まあ、王妃殿下の護衛はマリンが妥当だろう。さすがにそこは妥協できない」

「マリンの結界なら安心だもんね」

「あたしだって、王妃様の護衛はマリン以外にいないと思っているさ」


 女性騎士団員のマナー講師と結界術講師を兼任していて忙しいマロリーはこの場にいない。一番の犠牲者はマロリーかもしれないなぁ……。

 エルフリートはのんびりとそんな事を思いつつ、話の行く末を見守る。


「結局、護衛としての能力と、礼儀作法の能力を天秤にかけてバランスよく選ぶしかないわけだが。さすがに礼儀作法も護衛の能力も低い人間を上位の王族へつけるわけにはいかないからな」

「それくらいわかってるさ……はぁ、ややこし」


 バルティルデは体を動かす方が好きらしく、ため息を吐きながら机に突っ伏した。


「何事もないのを前提にすれば礼儀作法重視だが、そうはいかないんだよ。バティ」

「あー……、あたし、フリーデの穴を埋められる人材になれる気がしないよ」


 この会話を聞いていたエルフリートの頭の中には、何となくだが既に女性騎士団員の配置が決まっていた。おそらく元々配置を考えていただろうロスヴィータの考えに近い自信もある。

 あとはバルティルデがどれくらい二人の思考に近づく事ができるかである。


「がんばって、バティ」

「脳天気な女がいる」

「私、一応配置決まったもん。バティと答え合わせするだけだよ」

「はあ!?」


 がばりと頭を上げたバルティルデの顔には、あからさまに焦りの色が浮かんでいた。年上の彼女のこういう顔は貴重だ。エルフリートは少し楽しい気分になる。


「これでも、一応辺境泊の子供だからね」


 そう言って余裕の笑みを浮かべてやると、バルティルデは途端に真剣な顔になり、自分の書いたメモを見つめるのだった。




 バルティルデは考えるのが苦手だと自分の中で決めつけてしまっているきらいがある。考える事に苦手意識を抱いているだけで、決して頭の回転が遅いわけではない。

 むしろ、無意識の内にやっていた部分を意識的に引き出せるようになったら怖いものなしである。エルフリートは、バルティルデが考え事に強くなった暁には、自分は本当に不要になるだろうと思っていた。

 それは寂しいけれど、正しい事だ。エルフリートは、女性騎士団の立ち上げをサポートする為にいるのであって、ずっと女性騎士団を盛り上げていく為にいるのではないのだから。


 今も敵と対峙しているのではないかと思うような強い眼光でメモを見つめるバルティルデを見守りながら、早く育ってほしいような、もう少しゆっくりでも良いような、複雑な気持ちを抱いていた。


「あたしの考えが的外れでも笑わうなよ?」

「真剣に考えた結果を笑うわけがないだろう」

「確かに、された事ないけどね。さぁ、答え合わせだ」


 バルティルデは苦笑しながら配置を書き込んだ紙を見せる。エルフリートは自分の思っているものとほとんど同じそれを見て、自分の見込みは間違っていないのだとほっとする一方、自分が不必要となる未来が近づいている事を感じて寂しさを覚えるのだった。

2024.9.13 一部加筆修正

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