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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
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1

 ルッカが日常生活を人並みに送れるようになりつつある頃、エルフリートとロスヴィータは打ち合わせをしていた。それは、ライムンド王への直談判について、である。今回の連戦に関して、王陛下が式典を計画しているという話が舞い込んできたからだ。

 ちょうど良い機会である。今後の騎士団をよくしていく為、公的な場面で堂々と提案をしたいという話になった。


 目撃者が多数いる状況で、どこまで話を進める事ができるかは不明だが、それでも話題にしてしまえばこちらの勝ちだ。

 ロスヴィータにそう言われたエルフリートは、彼女の意見に乗る事にしたのだった。


「ロス、式典では簡単な提案しかできないと思うの」

「そうだな」

「でも、すぐに話を振られても大丈夫なように、ちゃんと提案の内容は詰めておいた方が良いよね」


 エルフリートの言葉にロスヴィータは頷いた。エルフリートは紙に王へ認めさせたい案件を書いていく。


「まずはぁ、ルッカの除籍免除でしょー?」

「ああ、それだがもう既に許可が下りている」

「え?」


 エルフリートは顔を上げた。ペン先が紙にインクだまりを作る。


「正式に、式典の時に申し渡されるだろうが……ルッカは女性騎士団在籍のまま、魔法師団勤務になると内定している。

 つまり、魔法師団預かりにしている間に義手を完成させろという事だな」


 悪い話ではない。魔法師団には、優秀な魔法のプロがたくさんいる。ルッカの研究の手助けにもなってくれるだろう。


 魔法具の開発や、御前試合の一件もあって、ルッカは魔法師団が認める存在でもある。腕を失ってもなお精力的に活動しようとする彼女の姿を見て、きっと彼らも応援してくれるはずだ。


「ルッカの事は心配いらないね」

「そういう事だ。だから、私たちは、今後の事を提案すべきなんだ」

「今後の事かぁ……」


 エルフリートは今後、というロスヴィータの言葉に、ひとつ思う事があった。


「育成かな?」

「騎士の教育か」


 ロスヴィータは感心するように頷いた。


「アイマルがいるし、騎士の能力の最低ラインを上げる事ができるんじゃないかなって。たとえばなんだけど、カルケレニクスは自然界との戦いが主にあるじゃない。それは大人子供関係なくやってくるから、年上の人間がちゃんと指導するのね」

「ふむ」

「そうすると、最低基準が上がるのよ。だから結果として、うちの領民は騎士団に入団できる最低ラインは越えられる実力を持っているんだ。

 攻め込まれる可能性の高い辺境領も、同じように子供を育成しているはず」


 エルフリートはクノッソ領の騎士を思い出す。自警団に意外な人物が参加していたし、きっとカルケレニクスのように子供の育成をしているだろうなぁ。

 一度手合わせしてみたかったな、と小さな心残りを思い出し、その言葉を紅茶と共に飲み込んだ。


「騎士になりたい人間を集めて教育する場があれば、女性騎士団の入団試験を突破できる人間も増えそうだな」


 ロスヴィータの言葉にエルフリートは瞬いた。同時に閃いた。

 それだ! 騎士の学校があれば、全部解決じゃないか。


「騎士学校を作ろう! 不均一な現状を打破するのに一役買ってくれそうだし、何よりロスが言う通りに女性騎士団員も増えそう!」


 エルフリートはさらさらと紙に思いついた事を書いていく。騎士学校、共学、騎士を希望する者は入学可能、貴族平民性別関係なし、など。

 貴族学校を卒業しなくても騎士になれるが、騎士学校の生徒は全員騎士見習いとしての身分を持つ事ができ、己の尊敬する騎士から指導を受ける事ができる。

 騎士学校に入った方がちょっとお得だよってしたい。


「変な騎士が減るよう、普通の教育も兼ねたいな」


 エルフリートがそんな事を思っていると、ロスヴィータがエルフリートの書き出しているものを反対側から読み、口を挟む。

 それは一理あるね。御前試合の時にも女性関係で大変な事になっている騎士がいたし、普段の警邏活動とかでも時々そういう乱れた騎士を取り締まる事があるもん。

 トラブルが減るかもしれないというのは、国にとって大きなプラスになるだろう。騎士の名誉を守る為にも、積極的になってくれるかもしれない。

 騎士の名誉は国の名誉。国の評価に繋がっていくのだから。


「それ、すごく良いと思う!」


 エルフリートは、一般教養、マナー、倫理、と書き加えた。


「平民出身の人にとっても助けとなるだろう。とても良いと思う。たとえ騎士になれなくとも、それを身につけるだけでじゅうぶん生きていける。

 貴族はその辺りを重視して相手を見るきらいがあるからな……教養があるだけで騙されにくくなるし、良い事尽くしだ」


 ロスヴィータからお墨付きをもらい、気をよくしたエルフリートはにこにこと笑みがあふれてしまうのがやめられなかった。


「講師を募ったり、ちゃんと指導要綱をまとめたり、いっぱいやる事があるねぇ」

「そこは話が進むと分かってからの方が良いだろう。今は、どんな仕組みにするか、枠組みの方をざっくりと提案する事を考えよう」

「はぁい!」


 ロスヴィータが目を細めて笑う。エルフリートはその優しげな笑みにきゅんと胸をときめかせながら、将来の騎士たちの為の学校について考えを巡らせるのだった。

2024.9.12 一部加筆修正

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