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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
隻腕の魔法騎士

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58/87

3

 部屋を出られるようになってから一週間。馬車を使ってではあるが、ようやく王都への帰還許可が下りた。他の帰還許可が下りた重傷者と共に、ルッカとジュードは馬車に乗り込んでいた。

 ジュードは怪我をしていないが、ルッカの付き添い人として乗車している。ルッカは結果的には女一人であるという状況に変わりないのだから、別に気にしないと言ったのだが、ジュードが断固として譲らなかったのだ。


 ジュード曰く「傷心の騎士は何をするか分からない」だそうだ。ルッカのように腕を失った者や足を失った者、内臓を強くやられて起き上がる事すら困難な者などばかりだ。軽い方として骨折した人間もいるが、そのほとんどが一人での生活が厳しい状態の者ばかりだった。

 そんな状態の人間が何かをしでかすほどに動けるとは思い難い。そうは思ったのだが、ジュードは違ったようだ。後がないなら、と暴れ出す者もいるのだと思っているらしい。念の為だから、と悲しそうな顔で言われてしまえば、断れなかった。


「ルッカ、小腹はすいていないか?」

「いいえ。まだ大丈夫よ」


 乗り合い馬車を借りての移動だから速度が出ない。通常の移動よりも更に時間がかかる為、仕方がない。だから、元気な肉体を持つジュードは他の人よりも暇を持て余しているようだった。

 乗馬時よりも揺れの少ない馬車だから、歩くのも楽だろう。彼はルッカに菓子を断られるや否や、周囲に配り始めた。中には断っている人間もいるが、彼らのほとんどは笑顔で受け取っていた。

 付き添いの聖者――マハラと言うらしい――は、ジュードのあまりの自由さに苦笑していた。




 そんな風にゆっくりと移動をしていき五日目、ルッカたちは王都まであと少しという距離まで近づいていた。


「ジュード」

「ん? どうした」

「あなたって、魔法はあまり詳しくないのだったかしら?」

「少しだけ補助魔法が使えるくらいで、魔法騎士と名乗れるような知識はないな」

「そうよね……」


 想定内の返事に、ルッカは軽く頷く。

 手先が器用だという話だけをアピールしていた彼が、実は魔法の方でも役に立てるのだと言いだすとは思えなかった。

 それに、今回の戦争だって、ルッカは彼が魔法を使っている場面をほとんど見ていない。使いこなせるほどの実力があったのならば、ルッカだけが結界を張ることもなかったはずだ。

 そういういくつかの理由があり、期待はしていなかったのだ。


「使えなくても、知識だけは詰め込んでもらうわ」

「そうなのか?」


 彼は目を見開いてぽかんとした。それはそうだろう。これだけずっといておいて、まだジュードにこの話は伝えていなかったのだから。

 知識がなければ、組立を手伝ってもらえない。基本的には指示した通りに組み立てれば良いが、それには知識が必要なのだ。ねじを留める力加減や絶妙な遊びの具合、それらをすべて数値として示す事がルッカにはできない。

 普通はできるのだろうが、ルッカが作る魔法具は大量生産には向いていない。エイミー用に作った鎧用の魔法具や左手を氷結状態にした魔法具などはその筆頭だったりする。


「悪いけど私の作る魔法具はただ組み立てるだけでは完成しないのよ」

「……お手柔らかに頼むよ」


 細かく説明しても、きっとうまく伝わらないだろう。ルッカは極めて簡潔に答えると、ジュードはそう言って笑うのだった。

 彼は意外にもあっさりと受け入れてくれた。それどころか、現段階の知識状況を自己申告してみせる。それはルッカにとって、とてもありがたかった。




 王都へ辿り着く頃、ジュードはとても優秀な生徒としてルッカから知識を吸収していた。同じ馬車に乗っている聖者まで関心していた。その熱心さと勤勉さは、彼が人体構造に関する講義を自主的に始めてくれるほどであった。


「マハラ」

「何です?」


 ジュードに便乗して聖者の講義を聴いていたルッカは小さく右手を挙げた。彼の説明はとても丁寧だが、分かりにくい部分があるのだ。


「もう少し比喩表現を減らしていただけると助かるのだけれど……」

「すみません。どうにも私は説明下手なようで。ちなみにどの辺りが分かりませんでしたか?」

「力の繋がりは一本からなる神の糸が紡がれたもので、語り部が旋律を奏でる事で成立する、という部分よ」


 そう、彼の説明はことごとく宗教的すぎるのである。論理的な話のはずなのに、どこかの神話を聞かされているような気分になってしまう。


「筋肉は繊維が集まって成り立つもので、本人の意志などによって動くという意味ですね」


 普通に言った方が早いし通じるのではないか。ジュードが理解しているそぶりを見せている事の方が意外であった。ルッカはちっとも分からなかったと言うのに。

 ジュードは理解できているという事がおもしろくないとは言えず、ルッカは表情を変えずに口を開く。


「最初からそう言ってほしいわ」

「すらすらと語れなくなってしまうのですが、それでもよろしければ」

「それでも良いわ。何度も質問するのは申し訳ないもの」


 ルッカが小さく笑むと、マハラは優しい笑みを浮かべ、講義を再開したのだった。

2024.9.7 一部加筆修正

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