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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
傭兵と王子様と妖精と……

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10

 アイマルがレオンハルトに連れられて出て行き、エルフリーデの思惑通りにブライスが残った。ブライスが「せっかくだから親睦を深めてこい」と適当な事を言って二人を追い出したのだ。


「話したい事って、彼の事だよね?」

「ああ、そうだ」


 エルフリーデはブライスが内容を整理するのをケーキを食べながら待とうとした。が、それはあまり必要がなかった。


「アイマルの奴、お前に興味があるのと同じくらい、兄の方も気になるらしい」

「へぇ?」


 これは確かにエルフリーデに少しでも早く伝えたいと思うわけだ。エルフリートとして振る舞う時間の長いエルフリーデにとって、アイマルが思わぬ災難となる可能性は高い。

 その可能性を少しでも下げる為に、早めに情報を伝えたかったのだろう。

 こんなにまともで誠実な人間なのに、女装している男に惚れてしまうなんて可哀想に。エルフリーデは目の前の男をじっと見つめた。


「フェーデに会うなら、フリーデをもっと知ってからにした方が良いとは言っておいたんだがな。もしかしたら、偶然にも遭遇した――という時にあいつが暴走するかもしれん。

 俺はそれを少し心配している」


 暴走ってなんだろうか。エルフリートから聞いたアイマル像は、暴走という言葉が不似合いなものだった。

 甘いケーキを堪能しつつ、彼の話を聞く。


「フリーデの暴走が原因なんだからな。お前は少し反省した方が良い」


 ブライスの物言いに目を丸くする。エルフリートは常に暴走している。今更、と言いたいところだ。


「アイマルの肉体や能力をひどく褒め散らかしてだな……」


 彼を評価しすぎたところで、何が問題なのだろうか。エルフリーデには見当もつかない。


「距離感なしで接近するものだから、彼を困惑させていた」

「具体的には?」


 ロスヴィータもこの話を聞くのは初めてなのか、カップを口につけようとしたまま動きを止めている。


「良い筋肉をしているとか言いながら、アイマルの筋肉を揉んでいた」

「……は?」

「俺は止めたぞ」


 両手をあげてそう言うブライスの額には冷や汗のようなものが浮かんでいる。エルフリーデはそこで自分が“エルフリーデらしからぬ”顔をしているのだと気づく。


「ごめん、びっくりして」

「いや、そうなるのも当然だ……。俺だってすごく驚いた」

「それはそうだろうな」


 ロスヴィータの呆れ声が混ざる。

 何となく気まずい空気が三人の間を流れた。気を紛らわせようとケーキをつつく。少しずつ口の中にケーキは消えていくが、気まずさはそのまま消化不良を起こしていた。

 ちらりとブライスを盗み見ると、彼はおとなしく紅茶を飲んでいるところだった。兄に振り回されてばかりいる可哀想な男に、申し訳ないと思いつつもエルフリーデは難題をふっかけた。


「ブライス、悪いけど……しばらく兄との面会はなしで。偶然も何も起きないように気を付けてくれる? あと、ちょっと私の勉強不足がありそうだから、私の時にも可能な限り会わない方向にしたいな。

 お兄さまと話し合わないといけないわ……」

「最大限、努力はするが。あんまり期待するなよ。意外と行動力があるんだ」


 ため息混じりに言われてしまえば、それ以上強く言えないではないか。

 エルフリーデはにっこりとエルフリーデらしい笑みを作った。


「うん。ありがとう、ブライス。頼りにしてるよ」

「……はいよ」


 不満そうなブライスは、それでも頑張ってくれるのだろう。エルフリーデはアイマルとレオンハルトの二人組が戻ってくるまで、ブライスとロスヴィータから今までの話をしっかりと聞き出すのだった。




 エルフリーデは屋敷に戻るなり、エルフリートの執務室へと向かった。かつかつとヒールの音を響かせながら扉を開ければ、彼は少しばかり驚いたようだった。


「フリーデ?」

「お兄さま」


 ゆったりとひとくくりにまとめた髪に、少し遊ばせた前髪、そして男性服。これがあの(・・)エルフリーデだとは、誰も思うまい。目の前の姿は、普段エルフリーデがしている姿と全く同じである。

 そんな兄の姿を見ていると、入れ替わりながら忙しく過ごした記念祭の数日が懐かしく感じる。


「だいぶ自由に振る舞われているみたいですね?」

「えっと、何がかい?」


 後ろ手で扉を閉める。エルフリーデから醸し出される不穏な空気に当てられたらしいエルフリートが、警戒するようにゆっくりと立ち上がった。


「私、痴女じゃないんですけど。何ですか、捕虜の筋肉を揉むとか!」


 詰め寄って扉から離れ、小さめの声で叫ぶ。


「あ……あー、えっと……それは、つい、羨ましくて」

「つい、じゃないわよ! それのせいで、アイマルはお兄さまに興味津々らしいじゃないの!」

「えっ、今なんて?」


 エルフリートがぽかんと口を開けた。その暢気そうな顔を見ていると、無性に腹が立つ。


「だから、エルフリーデが変わり者だから、その兄はどんな人だろうってアイマルがすごく気にしているらしいのよ」

「えぇー……意味が分からないよ」

「気をつけてよね!? あと、いったい彼に何をしたのか、細かく教えてちょうだい!」


 エルフリートはエルフリーデの剣幕に負け、エルフリーデに話さなくても良いかと思っていた細かな話を白状するのだった。

2023.9.5 一部加筆修正

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