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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
傭兵と王子様と妖精と……

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9

 エルフリーデの意味深な笑みにブライスが顔をしかめる。やってしまったと気がついたのだ。


「……ブライス?」

「気にするな。いつものやりとりだ」

「フリーデ嬢と、仲が良いな」


 アイマルが嫉妬を滲ませる。エルフリーデはブライスの時と同様の注意をアイマルに置き換えてしなければいけない事を察した。もしかしたら、ブライスがエルフリーデに伝えたかった事はこれなのかもしれない。


「そりゃ、合同訓練を重ねているし、何度も共に困難を乗り越えた仲だからな」

「それはそうだな」


 あっさりと引いた。気にはなっているが、それだけという事だろうか。共に行動する間、彼をしっかりと観察して見極める必要がありそうだとエルフリーデは思った。


「やあ、お待たせ」


 レオンハルトは私服で現れた。時間の経過などを考えると、どうやら今日は非番だったらしい。非番だったのなら、最初から教えてくれれば良かったのに。

 彼も囮組としてカリガートの戦場で疲労した身だ。口にして心の狭さを露呈するのはエルフリーデのプライドが許さない。とはいえ、婚約者であるエルフリーデに予定を知らせてくれないなんて、と内心で文句は飛ばした。


「……アイマル殿、向こうではちらりとお見かけしていたんですが、挨拶をする機会がなくて。レオンハルト・ロデリックです。よろしく」


 レオンハルトがすっと手を差し出すと、アイマルはおずおずと手を伸ばして握った。


「すでにご存じならば話は早い。俺はアイマル・デ・ナルバエスだ。フリーデ嬢の婚約者だと聞いた。手間をかけてすまないが、今日はよろしく頼む」


 少しの緊張を感じるアイマルに対し、レオンハルトは全く動じていない。

 レオンハルトは他者から送られる悪意以外、感受性が欠如しているのではないかと思ってしまうくらい鈍い。鈍いというよりも似合う言葉がありそうだが、エルフリーデには思いつかなかった。


「別にフリーデの婚約者だから、ここに現れたわけではありませんよ。もうあなたはこの国の一員なのだから、早く慣れていただきたいと思って」

「戦争で殺し合いをした相手への応対とは思えないな。一歩間違えれば、俺はあなたを殺していたかもしれないし、フリーデ嬢を手に掛けてしまっていたかもしれないのに」


 おや、と思う。

 エルフリートからの話によれば、このような言葉を発するような人間ではない印象だったが。エルフリーデは、自分たちとレオンハルトの差を考えたが、大きな差などないように思える。


「俺は、戦争と生活を切り替えて考えているだけです。あなたがたが俺の同僚を殺した事を許せない気持ちはあります。けれど、今それを追求したところで何も変わらない」


 レオンハルトは穏やかにアイマルへ語る。レオンハルトのように気持ちを切り替える事ができる人間はそうそういないだろう。

 エルフリーデは実際に戦場へ出ていないから、死んだ人間の事を話されても実感がない。大変だっただろうし、本当につらい経験だっただろうとは思う。

 体験していないエルフリーデには一生分かり得ない事が、彼らにはあるのだ。


「俺が気持ちを吐き出したという実績が残るだけですから。

 それに、あなたの同僚を殺したのは我々の方も同じだ。水掛け論のような話は俺は嫌いなんです」


「あなたは統率者側ではないと見受ける。上の人間は、心の中でどう考えていようが、あなたと同じ事を言うだろう。しかし、あなたは自由に己の心の内を俺にぶつける事は可能だった。

 それをしなかった事が引っかかっただけだ。発言に悪気はない」


「なるほど。確かにあなたの言う通りですね。俺は、俺が大切にする特定の周囲が幸せであれば良い。そういう主義者なので、俺の大切な人々があなたを認めているのならば、俺も同じ方向を向く。そこに裏も表もありませんから、ご安心を」


 アイマルはレオンハルトの主張を聞いて、何かを納得したように頷いた。レオンハルトの考え方は危うい面を持っている。エルフリートやエルフリーデを含む周囲が間違った方向へ向かおうとした時、彼の分析で間違った方向の方が幸せになるだろうと判断されたとしたら、いったいどうなってしまうのだろうか。

 レオンハルトの柔らかな笑みに、自分の婚約者ながら薄ら寒いものを感じ、エルフリーデは笑みをひきつらせた。彼ならば安心だと思って婚約した事は間違っていたかもしれない……と小さく後悔を滲ませる。


 しかし、である。エルフリートやエルフリーデ、ロスヴィータなどが間違った道を歩み始めなければ良いのだ。だから大丈夫なはずだ。そうエルフリーデは自分に言い聞かせた。


「レオンハルト殿、これからは親しい友人として交流していけると嬉しい。だから敬語はやめてくれ」

「それでは、俺の事はレオと呼んでくれるかい?」

「ああ。レオ」

「うん。よろしく、アイマル」


 改めて二人が握手を交わす。レオンハルトの事はともかく、今は二人の友情が結ばれるかどうかの方が重要だ。アイマルから緊張が抜けきった様子を感じ、エルフリーデはロスヴィータから「良かったな」と視線を送られ、目で頷き返したのだった。

2024.9.3 一部加筆修正

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