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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
傭兵と王子様と妖精と……

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50/87

5

 アイマルは、自分が他の人間とは違うのだとずっと思っていた。だが、そうではないのかもしれないと、母国に追い出されて思うようになっていた。

 その筆頭は、王都へ移送されるアイマルに同行しているエルフリーデだ。


「フリーデ嬢は、不思議な女性だな」

「あー……あれは、まあ、そうだな。いろいろと規格外だ」


 ちらりと背後に視線を向けながら言えば、野性的な雰囲気の男が気まずそうに女性騎士を見る。

 視線の先にいるのは、もちろん話題の主だ。ふんわりとした美しい髪を編み込み、なびかせている。その前には、ずいぶんとくつろいだ様子の騎士が相乗りしていた。

 一見、美丈夫な青年のようだが、彼女は女性騎士団長だそうだ。魔法は使えないという事だから、それなりに実力者なのだろう。二人が並んでいると、理想のカップルを見ているような気持ちになる。


「あれでも、互いに婚約者がいる身だ。気をつけろよ……フリーデの兄は、恐ろしい奴だ。できれば関わらない方が良い」

「……ブライスが言うと、興味が湧くな」

「本当に。やめとけ。心に傷ができる」

「……」


 どうやらブライスは本気で言っているらしい。その言葉を証明するかのように、魔獣の手綱を握る彼の腕は鳥肌が立っていた。肌が粟立つほどの何かが起きたというのは、気になる。アイマルはこの油断ならない男がそこまでになる相手という存在に興味を抱いた。

 相当強いのだろう。エルフリーデはあのようにすらりとしていて華奢な体つきをしているから、その兄となれば長身でたくましい筋肉を持つ男だったりするのだろうか。

 そういえば、エルフリーデは筋肉に対してだいぶアイマルに関心を抱いているようだった。あれは兄の影響なのかもしれない。まだ見ぬ相手に、アイマルは心を躍らせた。


「強いだけではない、という事か」

「まあ、普通に強いな。フリーデが騎士になっていなかったら、彼が騎士としてここにいたかもしれねぇ」

「お前よりもか?」

「フリーデの戦い方を見たら、やっかいだって分かるだろうよ。王都に着いたら、フリーデの戦いが見られる機会を作ってやる」


 すぐにエルフリーデの話題に戻される。厳密にはエルフリーデを知ってからでなければ、会わない方が良いとでも言うかのようだ。ブライスの徹底した態度は、アイマルの好奇心をそそるだけで、警告の意味を為していなかった。


「彼女の兄は紹介してくれないのか」

「あれは駄目だ。この国に慣れてからにした方が良い」


 一貫した態度に、アイマルは一度退いた方が良さそうだと判断する。それに、彼の言う通り、まずはこの国に馴染む事を最優先に考えるべきだ。

 エルフリーデとロスヴィータの仲睦まじい姿を見ながら軽く頷いた。


 それにしても、不思議な二人組だとアイマルは思う。二人が恋人同士で、エルフリーデが彼女でロスヴィータが彼氏のように見える。しかし、よく見てみれば、意外にもエルフリーデの方がロスヴィータを甘やかす場面が散見できる。そしてその時には、エルフリーデが男性的に見えるのだ。

 今だって、自分と同じくらいの体格であるロスヴィータをうまく支えながら魔獣を操っている。アイマルも同じ事はできるが、簡単ではない。時折ロスヴィータを気遣い、周囲を確認し、時々こちらに手を振ってくる。

 同じ状況になった時、そこまでの余裕がアイマルにあるかは不明だ。


「フリーデが気になるのか?」

「俺の周囲にはいなかった種類の人間が多くて、いろいろ気になるんだ」

「へぇ」


 何となくブライスの「へぇ」にはガラナイツの人間に個性がないのだと揶揄する雰囲気があった。否定はしない。ガラナイツは騎士という職でありながら、兵士のような扱いをされる。ただの駒だ。

 数字で戦力が表せる、少し豪華な駒なのだ。


「お前みたいな人間もいなかった」

「そうかよ」


 一人一人にある程度の裁量が任されるグリュップ王国の騎士とは、確かに種類が違う。決められた動きを寸分違わず実行する。それがガラナイツの強みだ。能力の平均的向上が、誰が欠けてもすぐに対応できる秘訣なのだった。

 グリュップ王国の方は、強い者はとことん強く、弱い者は弱い者としてうまく立ち回る。適材適所と言えば聞こえは良いが、強い者が欠ければ総崩れになる可能性を過分に秘めている。

 おそらく、その弱点を減らしたいという考えからアイマルを引き抜いたのだろう。


 技能の統一をしていないから、これだけ個性的な面々が揃っているのだとも言える。凡庸な面々がガラナイツのように育てられて戦力が安定すれば、かなり強固な団となるに違いない。


「俺は、お前のお眼鏡に適いそうか?」

「うん?」


 魔獣の上でバランスを崩しかねないほどに身をねじる。アイマルはブライスの怪訝そうな顔をしっかりと見つめた。


「ブライスは、まだ俺の事を警戒している……というか、様子を見ているのか? とにかく、どうにも一線を引いているから」

「あー……、いや。俺は、お前の世界観が部下にどんな影響を与えるか、それが気になっているだけだ。お前がこの国に不都合な事を引き起こすような人間だとは思っちゃいない」


 片手で髪の毛をくしゃりと握り、口元を歪める。ブライスの言葉は隠し持っていた毒薬を見つけられた時の言い訳みたいだった。

2024.8.30 一部加筆修正

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