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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
傭兵と王子様と妖精と……

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47/87

2

 数秒もすれば、エルフリートはブライスのよく知る“エルフリーデ”に戻ってしまった。ふんわりとした笑みの、ぽんやりとしていて、時々鋭く、笑顔でえげつない作戦を練る少女だ。


「俺に弱音を吐くのが本題だったら良かったんだが、本題は扉の向こうだろ?」

「……うん。アイマルと話がしてみたくて。でも、ブライスの顔を見たら甘えたくなっちゃった」

「嬉しい事言ってくれるなぁ。ほら、開けてやる」


 アイマルの戦いぶりは見ていないが、身のこなしやあの状況を生き残ったという話だけでもどれだけの実力者なのか想像がつく。

 ブライスが単体で正々堂々と戦ったら勝てるか怪しい相手であった。

 それを、鍵がつけられるだけの部屋で軟禁している。


 反抗しないと確約している捕虜とは言え、破格の待遇だ。代わりにこうして実力が拮抗しそうな人間が見張りに立っているわけだが。

 部屋の鍵を回し、扉を開けてやる。エルフリートは礼を言いながらその中へ入っていった。

 一応“男女”となるアイマルとエルフリートを二人きりの密室にするわけにはいかず、ブライスは扉を開けたままにして扉を封じるように立つ。


「アイマル、こんばんは。深夜にごめんね」

「……いや、構わない。まだ眠っていない」


 エルフリートが声をかけると彼はすっと起きあがった。本当に横になっていただけで、眠ってはいなかったようだ。一見すごんでいると勘違いしてしまいそうなくらいに鋭い目が、彼に向く。


「ふふ、だと思ったんだぁ」


 エルフリートは彼の視線を怖がる事なく、くすくすと笑う。この肝のすわり方は、なかなか真似できない。ブライスであれば、すごみ返してしまうところを、彼はうまく流している。

 女性のような流し方だった。


「私ね、アイマルの事、もっと知りたいなって思ってるの」

「俺の事……?」


 アイマルが視線を彷徨わせて動揺している。ブライスは彼の考えている事が手に取るように分かる気がした。突然、異性から「もっと知りたい」と言われたらどんな意味なのか、戸惑うに決まっている。

 ましてや、彼の見た目は「かわいらしい妖精さん」だ。

 ブライスは少しだけ、アイマルに同情した。


「本当は手合わせしたいんだけど、きっと許してもらえないから」

「……は?」

「アイマルの戦いっぷり、ずっと見てたの。すごく良かったよ」

「そ、そうか」


 エルフリートの中身は複雑だ。少なくともブライスはそう思っている。無垢かと思われるほど、性別関係なく相手と接する。強い相手を見るとわくわくしてしまう男らしい一面がある。

 かと思えば、夢見がちなところがあってロスヴィータに対していちいち初な反応をしてみせる。


 極端に女性的な部分があれば、極端に男性的な部分がある。いつか、同性としていろいろと聞いてみたいとブライスはこっそりと考えている。――が、それはブライスのエルフリートへの気持ちが完全に昇華されてからになりそうだ。

 エルフリートとアイマルの会話は、少し歪で思わずブライスが笑いをこらえなければならないようなおもしろいものだった。


「アイマルの使っていた魔法って、グリュップ王国で見かけるのと全然威力が違うんだけど、どうやって制御しているの?」

「一点集中で魔法を使えるように訓練したらできるようになる」


 エルフリートの質問に、アイマルは戸惑いながらも律儀に答えている。妖精のようなかわいらしい少女から、熱心に質問をされて嫌な男はいないだろう。

 表情はぎこちないものの、なるべくエルフリートが納得のいきそうな程度に細かく魔法について説明し始めた。


 ブライスは、エルフリートの正体を知らずにいるアイマルに対して微笑ましい視線を送る。それに気がついた彼は、おそらくブライスがエルフリートに鼻の下を伸ばしていると揶揄しているのだと勘違いしたのだろう。

 アイマルは睨むどころか、気まずそうにブライスから視線を逸らした。まぁ、そうだろうな。彼の素直な反応に、苦笑いした。


「身のこなし、すごくかっこよかったよ。その引き締まった体だからできるの? 今、ここの番をしているブライスよりもずいぶん細目の見た目をしているけど、結構筋肉ついているでしょう?」

「あ、いや……それはどうだろうか」


 アイマルの視線がうろうろと逃げる。きっとエルフリートがアイマルの服の下を想像してうらやましそうな顔をしているに違いない。目の前にいる美少女に己の肉体を想像されて、動揺しない男は少ないだろう。

 ブライスはようやく彼に憐れみの気持ちを抱いた。


「絶対、均等に筋肉がついていて、彫刻みたいな感じだと思う。そうでしょ?」

「……」

「野生の雄鹿みたいな、ひきしまった筋肉なんだろうなぁ」


 アイマルの戸惑いがこちらまで伝わってくる。ブライスは、アイマルがこちらに視線を向けてきた。

 仕方ない。助けてやるか。もう少し放置していたら、最悪エルフリートが“痴女”になってしまうかもしれないという危惧も相まったブライスは、二人の会話に割り込んでやる事にしたのだった。

2024.8.27 一部加筆修正

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