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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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15

 アイマルは一旦ブライス預かりとなった。というのも、エルフリートとロスヴィータにはやる事があったからである。それはルッカの見舞いであった。

 汚れを落として着替えた二人は彼女の眠る部屋の扉を開けた。


「ルッカの状態は?」

「取り急ぎ傷口を治しましたが、左腕の接着はやはり無理でした」


 ロスヴィータの声かけに、つきっきりで対応してくれていたらしい聖者が振り向く。その奥にあるベッドにはルッカが横になっている。今は眠っているようだ。

 よほど運が良くなければ聖者でも切断された人体を繋げる事は不可能だと知っているエルフリートは、途中で途切れてしまった彼女の左腕を見ながら頷いた。


「ですが、こうなる事を予見していたのでしょうかね。彼女の魔法具が動作しているんですよ。

 腕を失った割には、切断部分の凍結魔法のおかげで彼女の体は良い状態です。こう見えても失血は最小限ですし、二度と使う事はできませんが、左手も綺麗なままだ」


 彼は恭しく凍りついた彼女の手を持ち上げ、エルフリートとロスヴィータが見やすいように傾けた。確かに、ルッカの左手は今にも動き出しそうに見えるくらい、綺麗な姿を保っている。

 ガラスのような結晶の中に、すらりとした細い指を持つ手が閉じこめられていた。

 それをロスヴィータが恐る恐るといった手つきで手に取った。隣にいるエルフリートに冷気が届く。


「不思議と指輪などの魔法具は使えるようになっているので、絶対に魔力を注いだりしないでくださいね」


 エルフリートは伸ばしかけた手を引っ込める。魔法具の使い方は分かっていたが、何となく気持ちがすくんだのだ。


「この魔法具、ほとんど使い切られていたんですが、装着者から吸い取って補充するらしいんです。そのおかげで今も、このような状態に」

「左手だけでも結構な魔力が残ってるのね」


 関心したようにエルフリートが言うと、聖者は首を振った。


「それが、その……彼女の耳飾りと連動しているみたいなんですよ。そこら辺は俺はちょっと詳しくないんで、彼女が目を覚ましたら聞いてください」


 どこまでもルッカらしい。彼がこうなる事を予測していたらしいと言うのは、この魔法具のせいのようだ。エルフリートは血の気が引いた白い顔をして眠る彼女に向け、苦笑を送った。




 ルッカが目覚めるまで、残りの女性騎士団員に会いに行く。彼女たちのところへは、先にバルティルデが向かっていた。集合場所へ辿り着くと、真っ先に泣きはらした顔をしているエイミーの姿が目に入った。


「だんちょぉぉ……っ」


 女性騎士団の制服姿に戻っていた少女がロスヴィータの胸に飛び込んだ。しっかりと抱き留めたロスヴィータは、その後頭部を撫でる。


「お疲れさま。よくがんばったな」

「はい! でも、ルッカが……」


 潤んだ瞳を瞬かせながら、エイミーがすんと鼻をすする。


「全員生きて帰れただけで十分だよ。ルッカの事は、彼女次第だ。我々はそっと寄り添うくらいしかできないのだから、そう残念がる姿は見せてはいけないよ。一番辛いのは彼女だという事を覚えていような」

「はい、はい……っ」

「で、ここにいる人間は大した怪我をせずに済んだのかな?」


 エイミー越しに彼女が全員を見回せば、それぞれ頷きが返ってくる。その誰もが、少し前まで涙を見せていたと分かる顔をしていた。切なくなったエルフリートは、ロスヴィータの代わりに一人ずつ抱きしめて回る。

 まずは囮役として戦場へ向かった二人から。


「ドロテ、リリー、がんばったねぇ……怖かったでしょう? でも、おかげでこの国を守る事ができたよ。ありがとう。シャーロット、アイリーン、手伝ってくれてありがとう。とても助かったよ。

 カリガート領民の被害がなかったのは、今までぎりぎりまで耐えたみんなのおかげなんだ。胸を張って良いからね」


 エルフリートが新人たちを労い、慰めている間、ロスヴィータは抱きついたまま離れないエイミーに苦戦していた。


「甘えんぼだな、エイミー」

「もう、怖くないぞ」

「ルッカは大丈夫だ。元気になるさ」

「……人恋しいのかな? 今夜はゆっくりみんなと食事をして、ここで眠ろうか?」


 ここぞとばかりに甘えているらしいエイミーへのロスヴィータの言葉かけがうらやましくて、エルフリートはひっそりと奥歯に力を込めた。


「あんたら、お優しいねぇ……」

「バティ」


 壁の人となっていたバルティルデが笑う。その笑みは小馬鹿にするようでもなく、ただ悲しそうであった。


「そのままでいなよ。それを失ったらおしまいだからね。でも、引きずっちゃいけないよ。さっさと前を向きな。

 あと、そろそろ自分たちが殺した人間へ弔いの気持ちを向けてやったらどうだい? それが、戦場で生き残った側の義務であり、礼儀だよ」


 バルティルデの言葉は、ただひたすら部下を甘やかすような言葉を吐いていたエルフリートの胸に刺さった。そうだ。彼女たちは恐ろしい体験をした立場でもあるが、同時に加害者であるのだ。決して、ただ被害者の顔をしていて良いわけではないのだ。

 生きてて良かった、の裏には奪った命があるのだから。また、守り切れなかった命や、散っていった命も。

 バルティルデによって、エルフリートがいかに浅い考えで部下に接していたか思い知らされるのだった。

2024.8.25 一部加筆修正

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