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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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14

 アイマルは己の今後よりも、今日の戦いについてを聞きたがった。捕虜になったのだと認識した瞬間に腹をくくったのかもしれない。


「質問はこれで終わりだ。答えてくれて感謝する」


 結局、最後まで自分がどうなるのか聞く事はなく、そのままヘンドリクスを見つめた。


「では、今後の貴殿について伝えよう」

「ああ」

「今後、貴殿は捕虜として扱われる。だが、ガラナイツ国との交渉次第ではどうにでも転がる身だという事を覚えておいてほしい」

「ああ。分かっている。グリュップ王国内で処刑されようと、恨みはしないさ」

「そういう事ではない」


 ヘンドリクスは残念そうに首を振った。


「この状況を、アイマル殿は分かっていない。あなたがひとりガラナイツへ戻ったらどうなるか。全責任を負わされて処刑されるだけだぞ」

「……分かっている。どちらにしろ処刑なのだ。だから、そう言った」


 アイマルの言葉に、エルフリートは初めて彼が落ち着いている理由、そして今後の事を聞かなかった意味が分かった。彼はただ、いずれにしろ己の未来が長くはないと覚っていただけのだ。

 エルフリートは自分が同じ立場になった時、冷静でいられるだろうか。きっと、彼のように堂々とはしていられないだろう。


「俺はどうにでもなると言っただろう」

「……?」

「まだロスやフリーデから貴殿の戦いぶりを聞いていないから、正確な判断はしかねるが……彼女らの敬意の表し方からして、ガラナイツ国第二騎士団の副団長の名にふさわしい働きをしていたと見受ける。

 つまり、正直、ここまで生き残った貴殿の能力が惜しいと考えているのだ」


 ヘンドリクスの言いたい事が何となく分かり、エルフリートとロスヴィータは思わず顔を見合わせた。ヘンドリクスはアイマルには生き残る手があると言っているのだ。


「グリュップ王国がガラナイツ国に求める損害賠償の中に、貴殿を加えられるようにしたい。ガラナイツ国の優れた魔法騎士を取り込む事ができれば、魔法騎士を強化したいグリュップ王国としては願ったりだからな。

 ……貴殿の愛国心が強く、どうしても国を離れられない。もしくは、卑怯な手段を持って同士討ちをさせた人間と同じ方向を向く事ができないというならば話は別だが」


 ヘンドリクスからの提案は、破格だった。

 アイマルを、自国強化の助言者として取り込もうというのだ。捕虜という存在よりも自由度の高い、ある程度上位の地位を与えようというのだ。

 よしんば帰国後の処刑を免れたとして、これからの自由はないだろう。下手をすれば今までの権利を全て剥奪され、過酷な戦場へ死にに向かわされるだけかもしれない。


 精神魔法で混乱させられたとはいえ、仲間を手に掛けたという事実は変わらない。ガラナイツ国に残る仲間がアイマルを見つめる目が同情であれば良いが、軽蔑の目である可能性も十分にある。

 彼のせいではないと分かっていても、犠牲者の遺族や友人の大多数はそう割り切れないだろうから。


「……俺は、生まれた国の為に忠誠を誓った身だ。国に準じるあまり、親しい人間はいない。きっと、あの国で俺を悼む者はいないだろう」

「――つまり?」


 アイマルの言葉に、ヘンドリクスが慎重に続きを促す。


「生まれた国だから、従っていただけ。という事だ。

 そのガラナイツ国が俺をいらぬと言うならば、生きていたとしても死んだも同様だ。そんな死者でも必要だと言ってくれる国に忠誠を誓うのはやぶさかではない」


 アイマルはきっぱりと言い切ったが、その瞳は悲しそうに小さく揺らめいていた。エルフリートは“生まれた国の為”という理由だけで、ここまで強くなれたのならば、別の国に従う事こそ断固拒否するはずだと思った。

 ところが彼は提案を受けると言い切り、己の感情を切り捨てたような態度をとろうとしている。

 ガラナイツ国の為に生きるアイマル・デ・ナルバエスは、ガラナイツ国に不要と言われた途端に死に、別人となるのだ。それが彼なりの矜持を示しているように見えた。


「……分かった。貴殿の言葉、しっかり受け止めさせてもらう。グリュップ王国の騎士は、今回の件の責任を貴殿に問う事はしない。

 落ち着いてから事情を話すが、グリュップ王国への侵略行為には裏があるのだ。それを知っているからこそ、貴殿を歓迎こそすれ、不当な仕打ちはしないと誓おう。だから安心して体を休めてほしい」


 ヘンドリクスの真摯な発言は、アイマルに届いたようだ。彼は小さく頷き返して口を開いた。


「その言葉、ありがたく受け止めさせてもらう。ところで、俺の監視はそこにいる女性騎士団副団長殿がするのか?」


 意外な質問に、エルフリートは小さく首を傾げる。


「俺はおとなしくしているつもりだが、一応能力が拮抗する相手に監視をさせた方が良いと思ってな。彼女がやらないなら彼女と同等か、それよりも優秀な人間を用意してくれ」


 やけに協力的だ。意外な一面を突然見せてきた彼に、エルフリートは再びロスヴィータを顔を見合わせるのだった。

2023.3.18 誤字修正

2024.8.25 一部加筆修正

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