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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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13

 魔法騎士を仮の拠点へ案内したエルフリートたちは、その足でヘンドリクスのいる最奥へ向かった。司令室代わりに使っている天幕に、彼はいた。


「戻ったか」

「はい」

「良くやった」


 ロスヴィータは魔法騎士の背を押し、一歩前へ出す。


「見ない顔だが、本当に援軍のトップか?」


 魔法騎士の声色が硬い。エルフリートはそろそろ精神魔法を解き、彼を捕虜として捕縛する時がきたのだと察した。ひっそりと言葉を紡ぐ。


「偉大なる賢神よ、かの者を封じ、正常へ戻せ」


 エルフリートの言葉に応えるように、光の縄が魔法騎士を拘束した。精神魔法を解かれて正常な思考ができるようになった彼は、後ろ手に固定して動きを制限した上に足首まで繋がれた。きっと瞬時に状況を理解した事だろう。


「……全て罠だった、というわけか」

「悪いがその通りだ。俺はグリュップ王国が騎士団の総長ヘンドリクスだ。後ろにいるのは女性騎士団団長ロスヴィータ、副団長エルフリーデ。

 策を練り実行したのは、その女性騎士二人だ。二人とも、こちらへ」


 ヘンドリクスに手招きされ、ロスヴィータと共にヘンドリクスの脇へ並ぶ。エルフリートは全てを理解し、表情を捨てた男をまっすぐに見つめた。


「貴殿の名前を聞いても?」

「俺は、第二魔法騎士団の副団長。アイマル・デ・ナルバエスだ」


 ガラナイツ国の第二魔法騎士団。隣国へ攻め込む時には必ず投入されるという、実力者揃いの騎士団だ。エルフリートたちは彼の戦い方や実力から一般兵ではないと見ていたが、その通りだった。


「まずは、生き残った貴殿に敬意を表したい。可能な限りの質問に答えよう」


 ヘンドリクスの態度は硬いものの、敵兵に対する――というよりも、賓客に対している時のように丁寧だった。


「不思議な幻惑を見た時から始まっていたのか?」

「そうだ。あの場へガラナイツ軍を誘い込み、幻惑魔法を隠れ蓑にして精神魔法をかけた」

「そうか……」


 少しの沈黙が流れる。どの順番で、何を聞くのかを考えているのか、それとも自分がした事を理解して苦しんでいるのか、無表情の彼からは何も読みとれない。

 沈黙が続き、質問はそれだけで終わりなのかと思い始めた頃、彼は再び口を開いた。


「精神魔法を受けてから、俺はずっと仲間を殺して歩いていたという事だな?」

「流れ弾に当たった騎士もいたが、あなたの攻撃のほとんどは身内に向けられていたとだけ答えよう。それはあなただけではなく、他のガラナイツ側の人間全員に言える事だ」


 ヘンドリクスの目配せでロスヴィータが答える。


「どうやって貴軍が……いや、それは軍事機密だな。答えなくて良い」


 はあ、と溜息を吐いてゆるく首を振った。しかし、ヘンドリクスはエルフリートに答えてやれと言った。


「敵味方関係なく精神魔法をかけたのよ。敵味方を分類させる条件を設定してあったのと、それを事前に知っていて対応をしていたからグリュップ王国側には見かけ上作用していない状態にできただけだよ。

 条件はその時その時で変えられるから、機密ってほどじゃないね」

「単純だがややこしいな」

「うん。ちょっと面倒だね。ロスヴィータたちは精神魔法がかかってしまう場所にいたから、精神魔法にかかっていない私が彼女たちの魔法を解除して、それからあなたに近づいたの」

「もし、精神魔法がかかったまま接近していたらどうなっていた?」


 彼は自分の置かれていた状況を把握し、気持ちを整理しようとしているように見える。エルフリートはヘンドリクスが止めるまで、全て正直に答えた。


「ガラナイツ側は味方だと思っているけど、グリュップ側はガラナイツ側を敵だと認識するから一方的に殺されていたはずだよ。

 降伏しているも同然の相手を殺す事は、こちらも避けたいところでね。だから、徹底して近づかないように事前に指示をしていたんだ」

「……諸刃だな」


 アイマルの指摘はもっともだ。全員が同じ方向を向き、動いていかなければ不可能だっただろう。


「全軍が信頼し合っていないと、実現しなかったかもしれないね」

「だが、成功した」

「その通り」


 そこで初めて、アイマルの口角が上がった。


「魔法剣士の数が少ないからと甘く見たのが敗因だな。我々は、人数が多くとも一つの事をやり遂げる為に一つの生物のように動けるのだと、考えもしなかった。

 ばらけた時、連携が崩れたのだと思い込んでしまった。あれは、誘い込みだったのだな」

「そうだ。私が、この作戦の為に死んでくれと頼んだ。皆、よくついてきてくれた」


 ロスヴィータの言葉に、ヘンドリクスが付け足した。


「戻ってきた騎士は八割だ。二割は文字通り、この作戦の為に散った。生き残った騎士の一割強は、今後騎士として活動できるか分からない重傷を負っている」


 エルフリートも自軍の現状を初めて知った。思ったよりも悪い。エルフリートはそう思った。

 今更だが、もう少し囮役に盾が作れる魔法士を割いた方が良かったかもしれない。


「……そうか。どれほどの人員が囮として参加していたかは知らないが、悪くはない数字だ。よほど作戦が良かったようだな。

 更に退くタイミング、退路の設定、撤退中の振る舞い方、全て部下が指示通りに行ったのだろう。指揮官として尊敬する」


 アイマルの冷静な反応に、エルフリートは戦士として純粋に尊敬の気持ちを抱くのだった。

22024.8.25 一部加筆修正

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