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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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12

 生き残りはエルフリートの読みよりも多かった。次第にはらはらするような場面も増えていき、助太刀したい気持ちが芽生えてくる。しかし相手は敵兵である。そんな事は許されるものではないのだと自分に言い聞かせた。


「そろそろ終わり……か?」


 ロスヴィータが小さく呟いた。周囲に隠れられるような場所はほとんどない。その内の一つはエルフリートたちが使っている。


「フリーデ」

「なぁに?」


 エルフリートは努めてのんびりとした声を出した。


「脱走するような精神状態にはならないんだよな?」

「うん。好戦的になるようにしてあるよ」


 弱腰になると逃げられてしまう。それを避ける為に、いくつかの精神魔法を組み合わせてあった。恐怖心を消さずに消極的な思考をやめさせる事は骨の折れる魔法だったが、マロリーの手によって無事に完成した。

 移動時間で組み立てた魔法である上、実地試験なしでの実践投入という無茶な事をしたのだから、“絶対”と言い切れるわけではないが、この状況を見る限りはおおむね意図していた通りに魔法が作用しているようだった。


「相手を殲滅しきるまで、安心はできないという事だろうか?」

「そう思うけど」

「ならば、そろそろ移動するかもしれないな」

「あっ」


 エルフリートは思わず間抜けな声を出してしまった。盲点だ。本当に自分一人になったのかを確認すべく、周辺を徘徊する可能性を失念していた。


「気づかれないように追うのは厳しいと思うんだが、どうする?」

「……見つかった時点で、確保するしかないね」

「まあ、それが良いと思うよ」

「もう確保しちゃうってのは駄目なのかよ」


 溜息を吐くエルフリートに同意するバルティルデだったが、キャンベルは違う意見だった。


「もし生き残りが他にいたらどうする。あの魔法騎士と共闘して殺すのかい? 彼の記憶能力はいじってないんだから、面倒な事になると思うけどね」

「ガラナイツ兵の隔離も兼ねているんだろ? さすがにあの魔法騎士以外に生き残っている人がいるとは思えないよ」


 キャンベルはどうも早く帰りたいらしい。そわそわとしているのがエルフリートの目に止まる。エルフリートが口を開く前に、ロスヴィータが動いた。


「いや、キャンベル。早合点したり思い込んだりするのは危険だ」

「それは……まぁ、そうだな。ごめん」


 ロスヴィータがぴしゃりと言うと、キャンベルはようやく己の発言が早く帰還したいが為に、自分にとって都合の良い結論を押しつけようとしていたのだと気がついたらしい。彼はばつが悪そうに小さく頬をかいた。


「分かれば良い。早く終わらせたいのは皆同じだ。だが、それとこれは別なんだ」

「じゃあ、後をつけよう。そろそろ本当に移動するみたい」


 ロスヴィータが軽くキャンベルの背中を叩く。がしゃりと鎧の音が響く。魔法騎士に気付かれたらどうしようかと一瞬ひやりとして彼の方を見た――が、こちらに気づいた様子はない。エルフリートはそっと胸を撫で下ろした。


 あれから魔法騎士は警戒しながら移動を続けている。周囲はしんと静まりかえり、魔法騎士とエルフリートたち以外に生きている人間はいなさそうだ。

 襲われる事がないだろうと魔法騎士も思い始めているのが分かる。もうじき日が暮れるというのもあって、エルフリートは緊張しつつ彼の動向を見守っていた。魔法の効果はもうしばらく続く。そろそろ頃合いだと判断したエルフリートたちは、ようやく魔法騎士の確保に動いた。


「生きていたか」

「……味方か」


 ロスヴィータが話しかけると、一瞬警戒を露わにしたもののすぐにそれを解いた。魔法騎士はとうとう兜を脱ぐ。思ったよりも若い。自分の事を棚に上げてエルフリートはそんな感想を抱いた。

 日に焼けた小麦色の肌にくすんだ褐色の髪、意志の強そうな太い眉と一対のルビー。鼻梁の通った、全体的に性格のきつそうな顔をしている。全体的に色素が薄く、のほほんとして見えるエルフリートとは正反対の見た目だった。


「新たに拠点を作ったから案内する」


 ロスヴィータは不自然にならない程度に最低限の言葉で彼を誘導する。冷静な様子に不気味なものを感じながら、エルフリートはこっそりと魔獣に一足早く戻るよう指示する。


「全員初めて見る顔だが、補充要因か?」

「そんな感じだ。孤立しているらしいと聞き、状況を確認しに来たんだ」


 エルフリートは彼が仲間の顔を覚えているようなそぶりをみせた事に肝を冷やし、同時にほっとした。鎧をあらかじめ汚しておいて良かった。汚しておかなければ、明らかに戦闘をくぐり抜けたと分かる三人との差に、不自然に思われていただろう。


 本当に顔を覚えているのだとしたら、彼は管理者側の人間であるのかもしれない。思っている以上に、エルフリートたちは良い結果を持って帰る事ができそうだ。

 魔法騎士の質問にロスヴィータが淡々と答えていく。あらかじめ、与える情報をある程度取り決めていたが、彼女はとてもうまくやっていた。ヘンドリクスのもとまでは仲間のように接しなければならない。

 一番身綺麗で不信感を抱かれそうな見た目をしている自覚のあるエルフリートは、最後尾で目立たないようにしつつ、魔法騎士を観察するのだった。

2024.8.24 一部加筆修正

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