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じっと戦況を見守る事数時間。自らを囮に応戦している腕に自信のある魔法騎士と、彼を狙うガラナイツ兵という一体多数の戦いは続いていた。
エルフリートはロスヴィータたちと共に、結界の中で同士討ちをし続けるガラナイツの魔法騎士の一方的な戦いを見続けているのだった。
エルフリートが見たのは、四人分だ。
まっすぐ魔法騎士の懐に飛び込んでいった一人目は、そのまま冷静に切り捨てられた。二人目は魔法で攻撃しようとしていたのを察知して跳ね返していた。ただ自分の立ち位置を確保していたわけではなく、しっかりと罠も張っていたらしい。三人目はその罠にはまって魔法の槍で串刺しにされていた。
四人目は、三人目の方に魔法騎士の意識が向かっている隙を狙って背後から近づいていったが、予測済みだったのか、魔法騎士は振り向く事なく襲撃者を撃退した。
自信があるのだろうとはエルフリートも思っていたが、かなりの実力者だ。彼一人が残る未来がはっきりと見えるようだ。
「あと何人いるのかな」
「こちらに気がついていて、我々を警戒しているとかは?」
エルフリートの独り言に、ロスヴィータが反応した。ロスヴィータは魔法騎士が隠れている一角を見つめている。エルフリートたちを警戒する事はないはずだが、それには相手がリボンを視認しなければならない。
ロスヴィータの考えは、あり得ない話ではない。
「魔力に余裕があるみたいだし、もしかしたら索敵用の特殊な魔法とかが使えるかもしれないね」
「そんなものがあるのか?」
「ううん。知らないけど。そういう魔法が使えてもおかしくはないなって思っただけだよ」
魔力の大きい人間は、自分の力でどんな事ができるのか知りたがる傾向がある。だから自分専用の魔法を生み出したりする。
決められた呪文でしか発動しない魔法は一般的な魔力量の人間向けのもので、それ以外のほとんどは魔法が使える人間の数だけ存在していると言っても過言ではなかった。
体系的にまとめようと努力した研究者もいたようだが、その結果がどうなったのか、エルフリートは知らない。
「新しい魔法、落ち着いたら考えてみようかなぁ……」
「フリーデの魔法は感覚と想像力重視なんだよな」
「うん。そうなの。あの人はすごく器用そうだし、何でもできちゃうんじゃないかな? あんまり敵として戦いたくないなって思うよ」
「そんなにかい?」
エルフリートの言葉にロスヴィータだけではなくバルティルデまで驚いた。
「精神魔法を受けても冷静に状況判断ができている時点で、かなり怖い相手だと思うけど」
「そりゃそうか」
「できればあの人だけ捕虜にしたいな」
「……最後の一人になれば、不可能な話ではないぞ」
「え?」
ロスヴィータはちらりとエルフリートを見て言った。
視線を戻した先には、六人目の刺客が魔法騎士の剣技に打ち負かされている姿がある。
「ヘンドリクスから命令が下りている。可能なら最後の一人を捕虜にしろと。証言者がほしいそうだ」
今回の作戦で生き残るとしたら、よほど運が良いか、相当な実力者であるかのどちらかになる。実力者であれば、国内でもある程度認められている人物に違いない。説得力も増すだろう。
それに、エルフリートは少しだけ興味があるのだ。恐ろしい状況であるのにも関わらず、淡々と自分が生き残る為に必要な行動をし続ける事のできる魔法騎士の事が。
戦場は恐ろしい場所だ。混乱している戦場を安全を確保した上で移動していたエルフリートは、本当の戦場を直接味わっているとは言い難いが、それでも感じるものはある。
こんな空間を囮として駆け回ったロスヴィータたちは、どんな思いだったのだろうか。作戦の事を知らずに振り回されているあの魔法騎士は、いったいどんな思いを抱いているのだろうか。
それを知る事ができれば、少しは戦場に立てなかった自分も彼らに近づけるような気がした。
決して、精神魔法を広範囲で発動させる役割を担ったから“戦場に出ていない”と思っているわけではない。あれだって立派な戦場だ。剣を交わらせるような種類ではないが、人間の命を奪う事を前提として行っているのだから同じ事だと思っている。
それでも、ロスヴィータの戦場を少しでも知りたい、近づきたいと思ってしまう。人間として不謹慎かもしれないけれど、エルフリートはそんな気持ちを強く抱いていた。
「生きて、話が聞けると良いなぁ……」
「どういう事だ?」
「今後の参考になると思って」
「そうか。聞けると良いな」
ロスヴィータとぽつぽつと会話をする間に八人目の刺客が現れ、ねじ伏せられていた。至近距離で攻撃魔法を浴びた刺客は一瞬で姿を消した。
「無茶な戦い方に変わってきたなぁ。疲労しているのかな。今の見た? 体術で倒して魔法でとどめだよ。あ、次の挑戦者が見える。連戦だなぁ……」
キャンベルが脳天気に実況をし始めた。エルフリートは初めて魔法騎士が生き残ってほしいと思った。
2024.8.24 一部加筆修正




