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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
妖精と大熊、本領を発揮する
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3

 三人がそれぞれの案を考えて出し合った結果、エルフリートにとって面白い結果となった。ブライスとアイザックの案はまるで互いの案が被らないように打ち合わせをしていたかのようになり、バルティルデの出した案はブライスとアイザックの案を足して平均にしたようなものだったからである。

 九本の線はグリュップ国へ向けて、クルガン領から伸びている。ボルガ国とグリュップ国の間に横たわるカッタヒルダ山を、小隊で侵入するルートである。

 普通ならばないだろうというギリギリのルートを選んでいるブライスの案に対して、山越えを確実に行おうというのがアイザックの案であった。


 地図上に引かれた九本の線は、“会議専用”という名前の魔法具でつけられたものである。ペンと消し炭――本物の消し炭ではなく、似た形をしているからそう呼ばれているだけだ――がセットになっている。

 ペンには訓練に使ったような特殊なインクが使われており、対になっている消し炭を使って書き記した内容を完全に消し去る事ができる。騎士団などでの打ち合わせにのみ使われる特殊用途の魔法具である。

 ちなみに、一般流通はしていない。


 バルティルデの案を見て、ブライスは面白そうに唸っている。面白くても唸るだなんて、野生の熊みたい。

 アイザックはあまり面白そうじゃないけど。


「相変わらず俺たちはばらけるな。ブライス……そこ、本気で進めると思ってるのか?」


 アイザックが指し示している線を見る。ブライスが書いた線は、急な高低差のある場所を通過している。確かに、普通ならば避けるルートだ。エルフリートはアイザックの言いたい事を察した。


「特殊任務遂行がかかってるんだ。多少の無理くらいしてくるはずだ。それに、確かここは岩場になっていて、高低差はあるが、移動できなくはない。

 むしろ、普通ならばやらないだろうルートを越えてくると考えた方が良い」

「予想外の進軍は、それだけで有利になるからねぇ。確かに”あり”だわ」


 バルティルデの反応に、ブライスがしたり顔で笑む。アイザックが突然叫びながら頭をかきむしった。


「てかブライス、お前の予想は俺の知ってる限り百発百中なんだから、わざわざ俺たちに聞かなくても良いだろぉ!?」

「対してお前は半々だったな。きっと今回も半々だぞ」

「くっそぉ!」


 アイザックの豹変ぶりにエルフリートはロスヴィータと顔を見合わせる。バルティルデとブライスは、彼の様子を楽しんでいるように見える。


「良かったな、バティと考えが一致したところだけは当たりだろうよ」

「正答率を上げてみせる……っ」

「ブライスの副官を続けるなら別に気にする事でもないんじゃないの?」

「副官というのはな、サポートする相手を完全にコピーできる人間が理想なんだ。俺の読みはまだまだ浅いって事だ」


 苦々しげに吐き出されたアイザックの言葉は、エルフリートの胸に刺さった。エルフリートもそこを目指さないといけないのだ。

 自分はロスヴィータの思考をトレースできているのだろうか。彼女をちらりと見たが、何を考えているかは分からない。

 アイザックを慰めようとしたのか、ブライスが軽い口調で言い出した。


「まあ、俺と同じ意見がなかった事に関して、どういう思惑があったかは分からねぇけどな」


 相変わらず優しい人である。


「被らないようにしたんじゃないの?」


 エルフリートが聞けば、アイザックは軽く否定した。あらま……。真っ直ぐな人らしい。

 ブライスの優しさに乗って、エルフリートに頷いてみせるだけで副官のプライドは保たれただろうに。

 だが、この一瞬でエルフリートはアイザックの事が好きになった。生真面目な彼ならば、どんな情報も信じられる。同じ戦場に立つ仲間、どれだけ信じきれるかが重要になってくるだろう。


「全部に罠を張るのは、時間的には厳しいと思うよ」

「俺がそんな案を出すと思うか?」

「ううん。……誘導させる?」

「当たりだ」


 ブライスがにやりと笑う。あぁ、悪い事を考えてるなぁ……。エルフリートはそう思いながら、罠を張りやすい場所について書き込み始めるのだった。


「私がこの山の中で罠を張るとしたら、っていう場所が赤ペンで囲った部分。青ペンで囲ったのは、ルートに沿って罠を仕掛けるとしたらっていう場所」


 あちこちを囲い終えたエルフリートは説明を始めた。身を乗り出しているのはブライス、身は乗り出してないけど熱心さはブライスに引けを取らないのがアイザックだ。

 バルティルデは罠には詳しくないから、とロスヴィータと共に傍観者に徹している。

 ブライスはじっと見つめた後、エルフリートに質問を始めた。


「どうしてこの場所が罠に適していると思った?」

「ここはちょっとした窪地になっているから、死角が多そうなの。木の高さにもよるけど、吊りができそうだなって。できなくてもここなら落とし穴も作りやすそうだから、現地で何かしらの罠は仕掛けられるはず。

 よくある困った話は、行ってみたら罠を仕掛けられない場所だったっていうのだと思うの。だから、確実性も狙ってるよ」


 エルフリートは「ふぅん」と気のない返事をするブライスに不満を抱くも、彼の質問に根気よく答えていった。

2022.5.22 誤字修正

2024.8.5 一部加筆修正

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