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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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37/87

7

 エルフリートの主導で発現した幻惑魔法を見たロスヴィータは、兜を外してリボンを露わにするや否や、己の部下を捜すべく駆けだした。まとまっていたはずなのに、いつの間にか離れてしまっていたからどこにいるのか分からない。

 欠ける事なく、全員揃っていると良いが……。ロスヴィータは部下を見失ってしまった自分のふがいなさを悔いながら、次の戦闘が始まるまでの短い間を駆け抜ける。


 ひときわ大きな結界が見えた。もしや、という思いでそこに向かう。ロスヴィータの動きに気がついたバルティルデやキャンベルが、彼女のすぐ後ろを追った。

 ひときわ目立つ髪色が見える。ルッカだ。という事は、その近くにいる身長差の大きな集団がロスヴィータの探していた女性騎士団員たちだ。遠目で人数を数えれば、揃っている。ロスヴィータは胸を撫で下ろした。良かった。全員生きている。


「みんな、よくやった。リボンがあるから問題はないが、流れ弾が当たるかもしれない。撤退してくれ」


 労いの声をかけながら近づくと、様子がおかしい。


「マディソン団長!」


 涙目のエイミーが駆け寄ってくる。彼女の視線の先にはジュードに凭れるようにして立つルッカの姿があった。


「どうし――」


 すぐに状況は分かった。いつになく肌の色を失っている彼女は、右手で氷漬けになった左手を握っていた。だが、それは本来あるべき左腕と繋がっていない。

 事態を把握したロスヴィータは叫んだ。惚けている場合ではない。


「エイミー、すぐに聖者を待機させろ! ジュード、ルッカを抱えて今すぐ走れ!」


 ロスヴィータはガラナイツ兵の同士討ちを見届けるまで、戦場から動けない。動けるメンバーで足の速いエイミーを伝令代わりに、体格の良いジュードをルッカの足に、それぞれ指示した。


「ぐずぐずするな。早く行け! 他の者もだ。さっさと撤退しろ!」


 これで死ぬ事はない、そう安心して気が抜けたのだろう集団に渇を入れる。彼らはきびきびとした動きで駆けだした。ルッカの様子から、彼女が相当消耗しているのが分かった。

 腕を失った程度で人間は死なないと分かっているが、それはすぐに手当ができた場合だ。戦場でろくな手当もできずに走り回った事を考えれば、油断できる状況ではないのは明白だった。


「分かっているだろうが、バティたちは私と待機だ」

「ちょうどルッカの結界があるから、ここで待つのが良いね」


 バルティルデが落ち着いているのが頼もしい。早鐘を打ったままの自分の鼓動を感じながら、ロスヴィータは改めてバルティルデが側にいてくれる事を感謝した。

 キャンベルがロスヴィータとガラナイツ兵の間に立ち位置を変えながら口を開いた。


「腕、大丈夫かな」

「結果はどうであれ、私はルッカを誇りに思うだけだ」


 戦場ではやっていけない行為だと分かっていたが、目を閉じた。じんわりと目元に水分が集まるのが分かる。はぐれなければ、こんな事にはならなかったかもしれない。

 どうにもならないと分かっていても、そんな思いが浮かんでくる。


「あとで詳しく話を聞く必要があるが……彼女は立派な騎士である事には違いない」

「あの子は大丈夫さ」


 声が少し震えてしまった。鼻がつんとする。

 ぽん、と肩に手が乗った。ロスヴィータはバルティルデを見る。彼女は凪いでいた。


「目が死んでいない。ちょっと焦点は怪しかったけど、あれは痛みを抑える精神魔法を使うと起きるからそれのせいだろうね。

 あたしは戦場でああいう場面に立ち会う事が何度もあったから分かる。ルッカは大丈夫」


 バルティルデの落ち着いた、自信のある声がロスヴィータの柔らかい部分にそっと寄り添ってくれるのを感じた。ロスヴィータは目元の水分を分散させようと、瞬きを繰り返した。


「ルッカに関しては、今のところあたしたちがしてやれる事なんて何もないのさ。何かできるとしたら、治療が終わってからだよ。

 それよか、もうすぐ忘れられないイベントが始まるから見な」


 彼女が顎でガラナイツ兵が迫ってくる方を示す。そうだ。ロスヴィータは失念しかけていた事を思い出した。エルフリートと協力した成果を見届ける役を担っていたのだった。

 ロスヴィータが見届け人となり、総長のヘンドリクスが撤退する騎士たちをまとめ、安全地帯で待機する事になっていた。重傷者などが多数出る事は最初から想定されていた。

 厳しい状況になっている可能性などを加味しても、騎士としても歴の長いヘンドリクスが撤退する側の統率に回る方が理にかなっていたのだ。


 それに、立案したからにはその結果失われる命について責任を持つ必要がある。これからガラナイツの兵たちの身に起きる事は、歴史に残る残虐行為になるかもしれない。それを、「作戦だけ立てました。結果は耳にしています」では許されないとロスヴィータは考えていた。

 この結末を目に焼きつけ、こうならないように騎士の育成に力を入れていく。それがロスヴィータなりに考えた責任の取り方だった。

2024.8.21 一部加筆修正

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