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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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35/87

5

 しばらく進むと、互いの姿が目視できる距離になった。これからはガラナイツ兵もしっかりと的を絞って攻撃してくる。ルッカは身につけている魔法具を目視して、使うタイミングを間違えないように改めて確認した。


「行くぞ!」


 ヘンドリクスの号令で、全員が一気に向かう。まずは、攻撃する気持ちがある事を相手に認識してもらうところからだ。しばらく攻撃を受けたのち、少しずつ撤退していく。撤退するのは、まずは歩兵組。そして一部の騎馬組だ。あらかじめ撤退する順序もルートも決められている。

 ルッカたちは序盤撤退組ではない。これも決められている事だった。序盤は互いの魔法や魔法具で防御をしあう事ができる。それ故に、最初の頃は敵を倒そうという余裕があった。


「エイミー、前に出過ぎないで!」

「ごめんっ」

「ドロテ、エイミーの補助。リリーは私の盾」


 ルッカは結界を展開するのを周囲の騎士に任せ、マロリー直伝の派手な攻撃魔法を遠方へ放った。

 威嚇と見せかけた本気の攻撃である。遠距離の魔法は難易度が高い。広範囲の攻撃魔法とどちらが大変かと言われれば、遠距離の魔法である。

 広範囲の魔法は力圧しで何とかなるが、遠距離の方はそうはいかない。圧縮して攻撃力を保ったまま、遠方まで飛ばすのである。命中精度の問題もあるし、どれほど圧縮できるかによって飛距離や速度が変わってくる。


 ルッカの魔力は人より多いとはいえ、マロリーやエルフリーデのような化け物じみた量ではない。連発するのは厳しいものの、相手からすれば一発でも十分な脅威として感じられる事だろう。

 一発放つのとほぼ同時に、リリーに装備させている魔法具の一つが発動した。相手側からの攻撃に対応したのだ。あと数発はそれで耐えられる。ルッカはそう判断し、もう一度遠距離魔法を撃つべく集中するのだった。


「先輩、ガラナイツ軍中央から奥側に二発着弾。囮にしては高火力じゃない?」


 二発目を無事に撃ち終えたルッカに、リリーが報告を上げる。相手がただの威嚇だと思って結界を油断してくれていたら、被害はかなりのものだろうが、そこまでうまくいくかは分からない。


「良いの。それより、しばらくは接近戦に集中する。油断しないように」


 最初の撤退が始まるまであと少し。ルッカは遠くに見えるロスヴィータの後ろ姿を確認してから、視界の端に入り込んだ一人の兵士を切り裂いた。

 先ほどの二発は、後先考えない短慮な行動として認識してもらう為の餌だった。統制がとれていない軍団としてアピールする意味もある。

 ガラナイツ軍は足並みを多少乱したとしても、彼らはすぐに立て直して攻め込むはずだ。

 今までの戦況をふまえ、追加の軍勢が参戦しているとは言っても、それくらいではしゃぐ部下がいるとなれば、大した相手ではない。そう、勘違いしてほしいところだった。




 ルッカが取りこぼした兵をリリーが切り捨てる。近くではエイミーとドロテが一対の双剣を扱う一人の騎士であるかのように、うまく連携をとって敵と対峙している。馬は既に放棄していた。

 魔法剣士も敵味方が混戦する白兵戦ともなれば、大規模な魔法は使えない。小手指の、簡単に防げる魔法を駆使しつつ剣や槍を振り回すようになっていた。

 中距離から長距離になると一気に脅威が増すが、この近接状態はルッカたちにとって好条件であった――が、それも少し前までである。


 作戦上の撤退が始まったのだ。味方が減り、乱れがちだった陣形はいよいよ崩壊した。最初に撤退する騎士は、途中で合流する事になっている。ただし、戦意を喪失したへっぴり(・・・・)腰の騎士(・・・・)として。

 ガラナイツ兵を誘導する為の道標となるのだ。ルッカたちも、じりじりと目的地へ向けて移動している。目的地への到着はエルフリーデたちの魔法が完成するかしないか、といったタイミングが好ましい。

 しかし、そこまで少し距離がある。焦って誘導しようとすれば、その場所に何かがあると誰かが気づいてしまう可能性がある。それを誤魔化すための工夫としての仕込みであった。


 目的地へ一直線に全員を案内する必要はない。多少遠回りでも最終的に行き着けばよい。そういう事である。とはいえ、散らばるという事は、個々の対応の負担が増えるという事でもある。ルッカたちも、孤軍奮闘状態であった。


「後少しで時間だ」

「分かってる」


 がつんと鎧を叩かれ、声をかけられる。目的地まで、あと少し。距離を稼がないといけない時間になってきた。


「撤退!」


 ルッカはそう叫び、閃光の魔法具を発動した。視界重視の兜を被っているガラナイツ兵はさぞかしまぶしい事だろう。今の内に距離をとり、追いかけさせたい。

 と、その時。閃光の魔法が引き金になったのか、ガラナイツ兵の一人が的を絞らずに魔法を乱れ撃ちし始める。使い勝手の良い風の刃である。その刃の一つがルッカとつい先ほど声をかけてきた騎士に迫る。


「危ない!」


 ルッカは咄嗟に左手で彼の肩を押した。反動で騎士とルッカの間に空間ができる。ルッカと騎士の間を風の刃が通り過ぎた。二人とも死なずに済んだ。ほっとした瞬間、ルッカは激痛で悲鳴を上げた


「い――っぁぁ!」

「ルッカ!」


 反射的に左腕を曲げる。前腕の半ばから先がなかった。切り口は用意しておいた魔法具の効果で既に凍っている。勝手にぼろぼろと流れ出る涙を放置し、急いで落ちた左手を拾う。その左手は左腕の切り口と同じく凍りついていた。

 身を起こすと、すぐに騎士がルッカを支えてくれた。


「俺のせいで、すまん」


 食いしばって痛みを我慢していたルッカは、小さく首を横に振って答えた。本当は、叫びたかった。痛いし、喪失感が酷い。

 ルッカの血の代わりに、涙が地面へ染み込んでいった。

2024.8.20 一部加筆修正

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