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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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4

 ロスヴィータを含む女性騎士団の全員が騎乗した。昨日までと違い、騎兵と歩兵に分かれての配置である。乗馬という状況がルッカに少しの不安を覚えさせていた。いくら調教されているとはいえ、所詮は馬だ。魔法の攻撃にひるむ事は多々あるだろう。

 それを制御しつつ戦う事は、そう簡単ではない。

 乗馬自体は貴族の嗜みとして、また騎士として鍛えてきた。人並み程度には操れる。だが、それだけである。戦争という特異な状況で、一つでも気を配る要素を増やす事を避けたいのが正直なところだった。


 ルッカのそんな気持ちなど、誰も考慮してくれるわけはなく。女性騎士団が少数であるという理由で、全員が騎兵組になってしまった。途中で落馬するか、馬がだめになるかで、歩兵になるだろう。それまでの我慢である。

 ルッカはそれまで死なないよう、がむしゃらに動くだけだ。

 戦場は、相変わらず死の香りで満ちている。ルッカは先を行くロスヴィータやバルティルデの背を見ながら顔をしかめた。

 昨日の犠牲者が回収しきれず、近くで放り出されたままになっている。早く回収してやらねば、腐敗が進んでしまう。うじがわく前に、氷結保存してやりたいが……今はまだ、無理だ。

 すまないと、それだけを彼らに謝罪し、祈りながら通り過ぎた。




 ルッカは、こん、と兜をつついて面頬を上げた。一気に視界が広がり、死臭がつんと鼻に刺さった。息が篭もると思って面頬を上げたが、逆効果だった。慌てて下ろす。

 ルッカの鎧はだいぶ改造されていて、特に兜は特注品だ。面頬を上げると耳まで露出できるような構造になっている。こうする事によって、ピアスとして持ち込んでいる魔法具が使えるようになる。


 さらに、この面頬はスライドしやすいように加工されている。しかも右頬の辺りをとんっと指先で叩くと自動で上下する仕様だ。そのおかげでスライドしやすいからといって、不用意に顔が現れてしまう事はない。

 もちろん、面頬の部分はルッカが自分用に開発した魔法具である。前線に出てから、この兜の評判は上々で、王都に戻り次第、魔法騎士用に量産する事が決まっている。

 万全の状態であるはずだ。だから、必要以上に怖じ気づいたりする必要はない。


「ルッカ、敵が接近してきたら私の後ろに移動するんだよ?」

「分かっている。それくらい、私には簡単な事だ」

「盾になりたがるから、今日は大丈夫だよって言ってあげたくて」


 いつの間にか併走していたエイミーが話しかけてきた。よほど、切羽詰まった顔でもしていたのだろうか。ルッカは苦笑しつつ答えたが、エイミーはさらにルッカの事を把握していた。


「ほら、私たちってば士気が下がって混乱して戸惑って、撤退しちゃうような騎士だから」


 兜のせいで表情は見えないが、ぺろりと下を出していたずらな笑みをしているエイミーの姿が浮かぶ。


「そうね。そこそこ、に見えるように頑張りましょ。でも、死なないようにする方は手を抜かないで」


 わかってるもん、と理解しているのか不安になるような返事を最後に、再び無言での移動に戻った。もしかしたら、エイミーなりに緊張をどうにかしようとしていたのかもしれない。

 可愛いところもあるじゃないかと、ルッカは笑む。さあ、もう少しで敵との交戦予定地だ。いよいよ近づいてきた目印を見上げるのだった。




 目印代わりに使われたのは、古代遺跡の一部らしい巨大な彫刻であった。強力な魔法で保護されていて、今回の戦争でも損なわれる事なくそびえ立っている。

 同じレベルの結界を生み出す事ができたら、なにも怖くはないのだろうな、などとふざけた事を考えながら、ルッカは周囲をざっと見回した。ときおり遠距離魔法が飛んでくるものの、この場所に接近しているガラナイツ兵はいない。

 シャーロットたちは淡々と後に続いている。その周囲には歩兵にさせられた騎士が追いつき、息を整えがてら隊列を組んでいた。ルッカも似たような状況になっている。


 これでは要人とその護衛みたいな配置だ。普通は騎兵と歩兵を分けて配置するというのに。しかし今回はこの配置にこそ意味がある。騎士団総長の配慮だそうだ。

 人数の少ない貴重な女性騎士団員を減らさないように、という割と失礼な配慮だった。周囲の騎士が持つ魔法具が盾となり、多少の攻撃に耐えられるから、という事らしいが、ルッカはあまりいい気分がしない。

 だいたい、これでは肉の盾ではないか。彼らは女性騎士団を守る為に死ねと言われているのとほとんど同じだ。不満は湧かないのかと小さく聞けば、彼はにこやかな声で教えてくれた。


「あなた方はまだ、女性なんだよ」


 一見、人を馬鹿にしているかのような言い方だが、ルッカは納得した。女性騎士団は、騎士でありながら騎士だと認められていないという事だ。実力の伴わない“女の子”はこうして守られていろ、という事である。

 不満はあるが、本当の事なのだろう。だって、堂々としたロスヴィータやバルティルデの方を見れば分かる。彼女らの後ろには騎兵が数列。その後ろに続いているのが、歩兵とルッカたち女性騎士団員の固まりである。

 そう。ルッカたちは騎兵でありながら、歩兵と同じ扱いなのだった。

2024.8.18 一部加筆修正

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