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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
戦場の妖精と王子様

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33/87

3

 エイミーと共に集合場所へ向かうと、堂々とした出で立ちの――戦用に大将格だと一目で分かるよう、目立つ装飾のついた鎧を着ている――ロスヴィータの姿があった。その隣には、戦乙女もかくやといった通常の騎士用の鎧を着たエルフリーデが立っている。

 彼女はロスヴィータになにやらしつこく話しかけており、ロスヴィータはそれに笑いながら応じている。


「ロス、囮だから無茶しないでね?」

「分かっている。目的地へ誘導する途中で囮が仕留められてしまったら大変だ」

「そういう事を言ってるんじゃなくて!」

「はいはい、愛してるよ。私の妖精さん」


 エルフリーデの頬にかかった髪をよけてやりながら、ロスヴィータが囁くのが見えた。途端、エルフリーデの顔が真っ赤に染められる。……この二人、それぞれ婚約者がいる身のはずだが、どう考えてもその婚約者たちよりも距離が近い。

 これだから一部で密やかに、恋人同士なのではないかと噂されるのだ。本人たちの耳に届いているかは知らないが、少なくともルッカの耳には入ってきていた。


 ふと、隣にいるエイミーもこの雰囲気に戸惑っているのではないかと見てみれば、彼女はうっとりと二人の様子に見入っている。こっちは役に立ちそうにない。ルッカは二人だけの空間を打ち破るべく、口を開いた。


「団長、副団長。いちゃつくのもそれくらいにしていただけませんか? 独り身の新人たちには目の毒です」

「あっ」

「む……そうか、それはすまなかったな」


 ぽぽ、とエルフリーデの周囲に小さな花の幻影が舞う。ルッカのツッコミのどこに嬉しくなる要素があったのかは疑問だ。ロスヴィータは花の幻影を手のひらにのせ、にこにことしている。

 のんきな姿を見せる上司に何となくいらっとしたルッカは、二人を睨んだ


「再び慣れない戦場へ出陣する部下に、囮として作戦へ参加する新人に、言う事があるんじゃないですか?」


 上司二人は顔を見合わせた。アイコンタクトをする姿もちょっと気にくわない。ルッカは、前線に出る事に緊張しているというのに、この二人はそんな態度をおくびにも出さない。

 片方は前線で一番の囮として、うまく騎士たちを統率できない大将という不名誉を被りながら立ち回らなければならないのに。下手すれば、もう二度と会えないかもしれないのに。

 どうしてそんな、緊張感のない態度をとれるのか。


 隣に立っているエイミーだってそうだ。自分の命が危険にさらされるかもしれないというのに、のんきに上司たちを見つめている。

 訓練中だって、演習中だって、真剣な眼差しで取り組んできたはずの彼女たちだ。なのに、今はそんな雰囲気は全く感じられない。休憩時間の団欒なら分かる。だが、今は戦場へ出陣する直前なのだ。

 普通の神経だとは思えなかった。


「私が言う事は一つだけだ。しっかりと私についてこい」

「私から言いたい事も一つだけだよ。とにかく、死なない事」

「……わかり、ました」

「はい!」


 ルッカは目を見張った。返事が掠れてしまうのも無理はない。ロスヴィータとエルフリーデは微笑んでいた。その様子に、ルッカは二人が状況を受け入れた上で、いつもと変わらぬやりとりをしていただけなのだと気がついた。

 ルッカとのんきな彼女たちとでは、認識が違ったのだ。


「戦争に勝っても、あなたたちが戻ってこなかったら意味がないんだ。待ってるからね」


 エルフリーデの言葉に、浮かれたようなものは全く含まれていない。ルッカとは違ってこれからの戦いだけではなく、その先を見ているのだ。


「必ず、生きて帰るに決まってるじゃないですか。私はまだ死ぬつもりはありませんよ。もっとおもしろくて、私じゃなければ開発できなかったって言われるような伝説級の魔法具を作るんですから」


 前線が怖くないわけがない。だが、上の二人がそれを受け入れた上で、その後の事を考えているのならば、それに従うだけだ。

 ロスヴィータとエルフリーデが両方共に生きて帰れる、戦争に勝てる、そう言っているのだから、未来の事を心配する必要はない。

 心配するべきは、その途中で死んでしまうかもしれないという事だけだ。流れ弾に気をつけ、相手からの攻撃を防ぎ続ければ死ぬ事はない。この十日間、ほぼ毎日戦場へ身を投じていて、そして生き残ったルッカならば、あと一日くらい同じようにできるはずだ。

 ルッカは奥歯を噛みしめる。鈍い振動が頭蓋に伝わった。


「ちゃんと、全員で帰りましょう」

「みんなにお守りあげるね。目立つところに身につけて」


 ルッカの意気込みにロスヴィータが頷いたところで、エルフリーデがリボンのようなものを渡してきた。


「これだけは外れないように気をつけてね」


 ルッカは首に巻き付けた。

 よほどの事がなければ、外れはしないだろう。グリュップ王国の国色である白と金のストライプ柄のそれは、正にグリュップ王国の騎士であるという証にふさわしいように思う。


「敵味方を見分けるのに必要なんだ」

「相手には団結力を示そうとしているように見えるだろうね。本当は全く別の狙いがあるとは思うまい」


 エルフリーデとロスヴィータがにこやかに言う。ルッカは反抗的な態度を取っていた手前、気まずいなと思いながら黙って頷いたのだった。

2024.8.18 一部加筆修正

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